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「マンションにあったデッキで再生できるよ。中国はPAL方式だから日本に持って帰っても多分映らないと思うけど」
日本はNTSC方式なので放送方式の切換えのない機器では再生できない。
「こっちで再生できれば大丈夫。ていうか、こんな安いの?」
「基本、假版 (海賊版)だからね。たまに再生できない不良品もあったりするよ。正規品なんてここではほとんど見たことないけど」
「そっか。それはそれで著作権を考えると問題だな。まあ、学習者としてはありがたいけど」
孝弘も来たついでに物色していると祐樹が訊ねた。
「テレビ、ないんじゃなかった?」
「俺の部屋にはないけど、持ってる奴がけっこういるから、そこで見せてもらう」
「いいね、寮生活ってやっぱり楽しそう」
「高橋さんは大学は通いだったの?」
「うん。四人目だから学費だけでも親は大変だったと思うよ」
「そっか。あ、これすごく面白いよ」
祐樹は孝弘のお勧めを訊きながら、VCDを十枚ほど購入した。
昼食は夕べのお礼に孝弘が店を選んだ。俺がおごるからと最初に宣言すると「中国方式だね」と祐樹は文句をいわなかった。
中国には割り勘という考え方がなく、基本的に地位のあるほう、収入のあるほうが払う習慣だ。
あるいは誘ったほうが払うという暗黙の了解があり、誘われたほうが金を出そうものなら誘った側は面子をつぶされたと大騒ぎになる。
「高橋さん、羊肉 はいける?」
「けっこう好き。日本では食べたことなかったけどね」
孝弘もそうだった。羊を食べたのは北京に来てからだ。
「ウイグル料理って食べたことある?」
「ないよ。ウイグル族って西のほうの民族だよね? ウイグル族自治区だっけ?」
「そう。去年の夏休みにぞぞむに誘われて、シルクロードの旅行にいったんだ。そこで食べた料理がうまくてさ、けっこうハマって北京戻ってからも食べに行ったりしてて」
何度か行って顔なじみになった新疆食堂に行き、メニューを広げて祐樹に見せる。上から下まで目を走らせた祐樹は「知ってる料理があまりないね」と笑って孝弘に任せた。
「じゃあ、適当に頼むね。烤羊肉串儿 、抓飯 、大盘鸡 、拌麺 、あ、ビール飲む?」
「要冰的 (冷えたやつね)」
オーダーしながらの問いに祐樹が笑って答える。発音は完璧だった。冷たい燕京啤酒 が出てきた。
「これ、おいしいね。ジャガイモがほくほくしてて、鶏肉も味しみてて。このピラフみたいなのも好き」
「そうそう、この大盘鸡 にはまってこの店に来てんの。抓飯 て、つかむめしって意味の漢字なんだけど、現地の人は手でつかんで食べるからこういうんだって」
人参でオレンジ色にそまったご飯の上に、ごろんと大きな羊の骨付き肉がのったピラフを取り分ける。
日本人旅行者が持っていたガイドブックによるとポロと訳されているらしいが、そんな言葉は聞いたことがなかったし、そもそも日本にウイグル料理があるのか孝弘は知らない。
四品は多いかもと思ったが、見た目の細さに反して祐樹がしっかり食べることは知っていたので、ちょうどよかったようだ。
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