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「高橋さん、見た目のわりに食べるよね」
「言ったでしょ、男ばっか四人兄弟だって。食事もバトルだったから、とにかくたくさん早く食べなきゃってがっついてる感じだったんだよ」
兄三人と囲む食卓を想像すると、なかなか大変そうだ。
そのせいで、かなりの早食いだったのを、大学生くらいで自覚してゆっくり食べる練習をしたらしい。
祐樹に早食いを指摘したのはたぶん彼女だろうなと思ったが、孝弘は口には出さなかった。
「そうそう、うちは高校生になると週に一回食事当番があってね、おれの料理が鍋に定着したのはその時だね。ろくに料理なんかできないから、鍋なら野菜と肉切って入れればいいやっていう安易な考えで始まったんだった」
祐樹のおおざっぱな性格がよくあらわれているエピソードだ。
兄弟のいない(正確には今は二人もいるのだが)孝弘には高橋家の話はどれも新鮮だった。
「お兄さんたちも?」
「上二人はけっこう器用でちゃんと料理だったなあ。っていってもチャーハンとか焼肉丼とかからあげとか男メシだね、すぐ上の兄は麺ばっか作ってた。パスタとかラーメンとか焼きそばとか。パスタはけっこううまかったな、いろんなソース作ってくれて。でもだし変えてとにかく鍋っていう俺とどっこいだったのかも、いま考えたら」
男ばかりの兄弟でキッチンに立つ姿を想像したら、なかなか楽しそうな家庭なのがよくわかった。サバイバルな日々だったというが、それでもきっと兄弟仲もよかったんだろう。
高1まで父子家庭だった孝弘にはちょっとうらやましい気もした。もし兄がいたら、こんな感じだったんだろうか。
「お母さんは?」
「俺たちが作ると男メシだから、残りは母親がまともな食事、作ってくれてた。焼き魚とか煮物とか。母親も毎日作るのが大変だったんだろうね、食事当番はあんたたちの自立のためよなんて言ってたけど」
「お母さんて、高橋さんに似てる?」
「うん、似てるっていわれる。でもとくに女顔だとは思えないんだけど」
「高橋さんは女性っぽく見えないけど、顔だちがすごくきれいだと思う。でも行動は男らしくてかっこいいけど。あ、でも甘え上手って感じもするな」
孝弘はなにも考えていなかった。
祐樹があっけにとられた顔になったのを見て、しまったとあせる。ただ思ったことをストレートに言ってしまい、ストレート過ぎたと思うがフォローのしようがなかった。
孝弘のあせりまくった顔を見て、祐樹が楽しそうに笑い出した。それでほっとした。
「いやいや、お褒めにあずかり光栄です。でも甘え上手ってなに」
くすくすとまだ笑っている。
「いやなんか、つい面倒見ちゃうというか、自然と頼られてる気がするというか。年上なのに失礼か。えーと、中国歴のせいだと思うけど」
「ああ、末っ子気質なのかも。上に面倒みられ慣れてて、ちゃっかり者だって言われたことあるな」
反対に長男気質というか自立した一人っ子気質の孝弘は、祐樹の世話を焼くのが案外楽しい。中国初心者の祐樹を見ていると自分もああだったと思い出す。
「末っ子は要領いいとか言われたりする?」
「たまにね。でも上野くんこそ男らしい顔だし、背も高いし、もてるでしょ」
「それはないなー。そもそも留学生社会は女性上位なんだよ」
「どういうこと?」
「男女比が極端に違うから。うちの学校でいうと、男7女3くらいかな」
「そっか。女子が圧倒的に少ないんだね」
男女比に差があるから、どちらかと言えば女子に選択権があるのだ。
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