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第16章 会えない日々

 9月になって新学期が始まると、祐樹には会えなくなった。  わかっていたことだが、週に3回、約束しなくても会えるのは、すごく贅沢なことだったと思い知る。  会いたくても気軽に誘いをかけるわけにはもういかない。誘ったところできっと祐樹は来ない。それがわかるから、うかつに声を掛けることはできなかった。  新年度でなにかと忙しかったのは幸いだった。  新しくやって来た香港人の留学生と同室になって下の階に引っ越しをしたし、クラス分けテストに新入生歓迎パーティや交流会など、新年度の始まりで学校全体が落ち着かない雰囲気に包まれていた。  毎日あれこれ行事や手続きがあり、機械的に授業に出て予習復習をして、それだけで日は過ぎていく。  何をする気力もわかず、そうしているうちに9月も半ばになっていた。もうこのまま祐樹に会うことはないのかと、落ち込んだまま時間は過ぎていく。  用事もなく、連絡を取らなければ会うことはない。  それだけの間柄だったのだと突きつけられて、わかっていたけど気分はふさいだ。友達でもなく同僚でもなく、中途半端な関係だった。  あの成り行きのような告白のあと、事務所で顔を合わせた祐樹は見事に何もなかったかのような態度で孝弘に接してきた。  ごくふつうに仕事を頼み、昼の休憩時間には社員食堂で食事もした。  孝弘を避けるようなそぶりもなく、すこしの動揺も気まずさも見せないポーカーフェイスに大人の余裕を見せつけられた気がした。  失恋くらいで動揺するじぶんは、祐樹からすれば確かに年下の子ども扱いされても仕方ないのかもしれない。 「年下は好みじゃないんだ」  どう頑張っても、それはどうにもできない。  祐樹の気持ちを動かすことは孝弘にはできないのだ。  最後の出勤の日、帰りの挨拶をする孝弘に祐樹は「本当にお疲れさまでした」とあたたかく笑ってねぎらってくれた。でも口先だけでも「また食事にでも行こう」とは言われなかった。  それにほっとすればいいのか、落胆すればいいのかもわからないまま「いろいろお世話になりました」と表情を取り繕って穏やかに挨拶を返した。  それで終わりだった。  それきり会っていない。

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