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点滴が終われば帰っていいといわれ、会計を済ませるとタクシーでマンションに向かった。
途中、祐樹をタクシーに残したまま、孝弘はスーパーに寄って食材を買い、いつもの食堂でご飯を持ち帰り用につめてもらった。
部屋に着くと孝弘は有無をいわさず祐樹をベッドに追いやり、勝手知ったるキッチンに入った。
胃が弱っているようだし、コンソメよりやっぱり白だしかな? 買ってきた野菜をみじん切りにして鍋に入れて火にかける。
ここで祐樹の手伝いは何度もしたが、ひとりで料理をするのは久しぶりだった。何年も作っていなかったので心配したが手はちゃんと動いたし、味見した限りでは大丈夫そうだ。
「高橋さん、雑炊なら食べられる?」
「ああ、うん。食べるよ」
ベッドまで運ぼうかと訊くと、起き上がった祐樹はリビングまで出てきた。鶏肉や野菜をちいさく切って具だくさんに仕立てた雑炊のどんぶりを、驚いた顔で受け取った。
「料理するんだ」
「高一まで親父と二人だったって言っただろ。ずっと料理は俺の担当だったし」
椅子に座っていただきますを言うとれんげですくって一口食べ、ゆっくり咀嚼して飲み込むとそのままれんげを小皿に置いた。
口に合わなかったかと慌てる孝弘に、祐樹は顔を上げて、ようやくまっすぐ目を合わせた。
「この雑炊、すごくおいしいよ。本当にありがとう。病院まで迎えに来てくれて、ご飯まで作ってくれて」
素直に感謝を告げられて、孝弘の頬が熱くなった。
「すごくうれしかった。ちゃんと言えなくてごめん」
「いいから、食べて寝なよ。まだ顔色、悪いから」
やはり体がしんどかったようで、雑炊を食べて薬を飲んだ祐樹はおとなしくベッドに入った。
6時を過ぎて電話が鳴った。
祐樹は寝ていたので一瞬迷ったが、孝弘は電話を取った。安藤からだったのでほっとする。安藤は祐樹のようすを訊ねたあと、趙英明から聞いた医者の話を考慮して3日休ませるといい、孝弘に礼をいった。
「念のため、今夜は高橋さん家に泊まろうかと思うんですけど」
「そうしてもらえる? 悪いな、こっち大連で動けなくて」
「いえ、俺こそ高橋さんにはお世話になったし。海外で病気すると、一人だと不安だし食べたいものがなくて困るし」
「いやほんと、上野くんがいてくれて助かったよ。うちの嫁か阿姨 さんを行かせてもいいけど、高橋がよけいに遠慮するかと思ってさ。大したことなさそうだけど、ここんとこちょっと顔色悪かったし、海外生活の疲れとかストレスが出たんだろうな」
またあしたの朝、電話をかけると言いおいて、安藤は電話を切った。
寝室へ行くと祐樹はぼんやり目を覚ましていた。
安藤の電話の内容を伝えてきょうは泊まると告げると、困ったように目線を揺らした。
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