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「正直女子とつき合うのもセックスも全然好きじゃなくて。どうすればいいかわからなくて、苦しくて混乱してたときに、手を差し伸べてもらった」
もがいて苦しかった高校時代を思い出すと、今でもその時の気持ちがありありとよみがえる。学校では王子さまの仮面をつけて優雅に微笑みながら、心のなかは葛藤でいっぱいで混乱して苦しかった。
彼女と呼べる子は途切れなかったが、短い期間付き合ったもう顔も名前も覚えていない彼女たちを思うと、申し訳なくて、でもそんなことを思うことすらおこがましい気もする。
「中学でも高校でも、おれがいちばん苦しかった時に、さりげなく助けてくれた。べったりそばにいたわけじゃないけど、精神的な支えになってくれてたと思う。彼に恋愛感情はなかったけど、好きだったし信頼してた」
その後、彼が大学を卒業して就職したあとは、とくに連絡は取らなくなった。たまに元気かとようすをうかがう電話が来ても、社会人になった彼と会う機会はなかった。
「もう俺の助けはいらないだろって言ってた。彼は就職して忙しかったし、おれも大学に入っていろんな出会いがあって」
ほんの少しためらうようなそぶりのあと、もたれかかっていた孝弘の肩から身を起こして祐樹は言葉をつづけた。
「同じような指向のやつもいたし、理解してくれる友人もできた。初めて恋人っていえる相手もできて、ようやく自分を認められるようになった」
そこまで話して、祐樹はふうと息をついた。
冷めてしまったほうじ茶を手に取って一息に飲む。
その横顔を、孝弘はじっと見つめた。
なにも口を挟まなかった。話はまだ終わっていない。
「去年、就職してずいぶん久しぶりに彼に会った。再会してからはときどき二人で会うようになった。お互いフリーな時期で、食事に行ったり飲みに行ったり。誘われたらセックスもした」
つき合おうなんて言葉はなかった。
彼に対してそういう感情は持たなかったし、ただ懐かしく、また会えたことがうれしかった。
頼りっぱなしだった中学高校時代とは違って、同じ会社の同僚として、お互い社会人として話ができることが楽しかった。
「おれの北京行きが決まるすこし前、彼が上司から見合いを持ち込まれて、それで海外赴任の話が出るんだなって薄々わかってた。日本を出る直前におれも一緒に食事したけど、ほんとにきれいで頭のよさそうな人でお似合いだと思った」
上司の紹介だけあって、家柄もよく気配りのできる美人で英語もできて、海外駐在員の結婚相手にはぴったりの女性だった。
整った容姿の彼と並ぶと、本当に似合いの美男美女のカップルだった。
「だけど、こないだ突然電話があって。そのあと北京まで会いにきて、本当はずっと好きだったっていうんだ。おれが高校に入ってから、ずっと好きだったって。そんなこと、知り合って十年以上たってから言われるなんて想像もしてなかった」
祐樹が苦しそうな表情になる。
孝弘はそっと手を握った。ぴくりと一瞬身を固くしたが、振り払われはしなかった。
うつむいた祐樹が唇をかんで、何か思い出したのか苦しげに眉を寄せる。
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