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 エレベーターで最上階に行くと黒服にカウンターに案内された。適度に観葉植物が配置され、ゆったり飲める空間になっている。  案外悪くなかったと思いながらなんとなく店内を見まわしていたが、あるところで視線が止まった。  ソファ席に孝弘がいた。  驚いたのは連れがいたからだ。  ラフなジャケット姿の男だった。親し気に肩を寄せて話し込んでいる。男の顔は見えないが、服の着こなしから日本人だろうと推測できた。  ジンバックを頼み、それを飲みながらどうしても目線は孝弘を追ってしまう。  自分とあんなことをしたあと、誰かと会っているなんて。  でも孝弘にとっては北京なんて庭も同然。友人知人は数え切れないほどいるはずだ。一緒にいるのはそのうちの一人なのか、それとも特別な誰かなのか。  デートだとは思いたくなかった。  いや孝弘の恋愛相手は女性のはずだし、そもそもさっきのことは突然の成行きだったのだから、もともと彼と約束があったんだろう。  すこし冷静になるとそう思い至り、祐樹は二杯目のジンバックを頼んだ。  相手の顔は見えないが、孝弘は横顔が見える。  ごく自然な笑顔を向けている。あんな顔をするなんて。相手はそうとう親しい間柄のようだ。  なにか楽しい話でもしているのか酔っているのか、相手は孝弘の肩をたたいたり、頭をなでたりする。  孝弘はその手を邪険に払うが、楽しげなやり取りなのは遠目にもわかった。  すこし親しすぎるんじゃないの?   中国では同性の友人同士で普通に肩を抱いたり腕を組んだりするから珍しい光景ではないが、孝弘がそういう触れあいかたをするタイプには思えない。  いやでも、祐樹にはよく触れてくる。  じゃあ、好きな相手には許しているわけか。つまり彼は好きな人ってこと?  むかむかと胸のなかに湧いてくる感情を祐樹は自覚する。  これは嫉妬か。  祐樹の知る限り、孝弘の恋人は女子だけだったし、男は祐樹が初めてだと言っていたが、その後のことはわからない。  今の恋人が彼であっても、おかしくはなかった。  ひょっとしたら、これはデートの現場を見ているのかもしれない。そんなことを考えると胸がきゅうと締め付けられるような気がした。    馬鹿だな、嫉妬なんかできる立場じゃない。  孝弘はただの通訳だ。  かなり早いペースで2杯目を空け、3杯目にシンガポールスリングを頼んで、これを飲んだら部屋に戻って寝てしまおうと決心した。  

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