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 タクシーを降りて公園入口からすぐ手前の路上に食堂や屋台が並んでいる。  そこでタクシーを降りた孝弘が屋台を指さした。 「先に朝ごはんにしよう」  これまた早朝とは思えない賑わいで、ほかほかと湯気を上げる大鍋や蒸籠が歩道に並んで、その前で客があれこれ注文している。  ドラム缶にしか見えない鉄板のうえでは生煎包(ションジェンパオ)がジュウジュウ焼かれ、大きな蒸籠では包子(パオズ)馒头(マントウ)が温められており、油の張った大鍋では油条(ヨウティャオ)が次々揚がり、隣りの大鍋では馄饨(フントゥン)(ワンタン)や米粥(ミィジョウ)がぐつぐつ煮えている。  ほかにもいろいろな食べ物があるようだ。 「こういうの、食べたことある?」 「ないけど。これって大丈夫?」  夜市で屋台の食べ物には気をつけるよう注意されたことを思い出して訊いてみると、孝弘は心配ないとあっさりいう。 「平気だよ、夜市より安全だから」 「そうなんだ」 「個人の胃腸の強さにもよるけどね。でも高橋さん、あんまり腹壊さないみたいだし」  確かに個人差は大きい。ダメな人はペットボトルのミネラルウォーターでもダメなのだ。 「こういう火を通したばかりの作りたては平気だよ」  祐樹はうなずいた。  小学生が座るような低い木の椅子に腰かけ、大きなテーブルにほかの客と相席する。  よくわからないので孝弘にオーダーを任せると、待つこともなく、目の前に馄饨と白粥と豆腐脑(ドウフナオ)が一杯ずつ、油条、生煎包、焼餅等が並んだ。 「高橋さん、どうぞ。味見して、食べられるものだけ食べたらいいよ。口に合わなかったら無理しなくていいから」 熱々の油条をちぎってレンゲでお粥に沈めながら、漬物もそこに入れてかき混ぜ、そのまま口をつけずに渡してくる。  どんなものかとほかほかと湯気のたつ揚げパン入りの白粥を食べてみた。 「あ、意外といける」 「うん。お粥に味はついてないんだけど、この油条入れるとふしぎとおいしくなる。ここに並んでるのが、北京人(ベイジンレン)のわりとポピュラーな朝ごはん」 生煎包は小ぶりの焼き包子でごま油とねぎのいい香りがした。 焼餅は中にそぼろが入っている。 焼きたて熱々で、具がジューシーでとてもおいしい。 どれも路上でよく見かけるが祐樹はチャレンジしたことはなかった。  今度、自分でも買ってみよう。  屋台の食べ物は値段交渉もいらないし、何個いくらと決まっているので祐樹でも心配なく買える。

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