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第28章 天壇公園(ティェンタンコンユェン) 

 部屋へ戻ろうと廊下を歩いていると、どこかから賑やかな音楽が聞こえてくる。  窓の外を見ると、病院の裏の広場で赤い扇子を持った男女がひらひらと回転しながら踊っているのが見えた。  まだ朝の6時だというのに大音量で陽気なリズムが響き、華麗な動きで踊っている。公園や広場で、健康のために朝早くからこうして踊ったり太極拳をしたりするのは中国ではよくある光景だ。  そういえば、以前、孝弘の太極拳を見せてもらったことがあったな。  朝の光の中で、5年前の懐かしい出来事を思い出した。  仕事終わりに孝弘の誘いで羊の串焼きを食べに行った。  ウイグル族の店で、独特のスパイスの効いた串焼きはくせになるおいしさだ。  路面に出ている店なので、風が吹いていて気持ちがいい。  7月の北京の空は夕暮れの色がやさしかった。  スパイスの効いた羊肉に冷たいビールがよく合う。  味のうすい五星ビールを飲みながら、祐樹はこっそりデート気分を楽しんでいる。 「そうだ、天壇公園ってきれい? けっこうおもしろいって聞いたんだけど」  ゆでピーナッツをつまみながらさりげなく切り出した。  こういうふうに訊いてみると、親切な孝弘はたいてい行こうかと誘ってくれる。それをわかっているから祐樹はときどき話を振るのだ。 「まあまあきれいだと思う。観光地だけどふつうに広い公園で、庶民の憩いの場でもあるけど。もとは昔の皇帝が祈りを捧げた場所だったっけ?」  孝弘が首をかしげた。  天壇公園というきれいな公園があると聞いたのは鈴木からだ。 「俺も去年、一回行っただけだな。行ってみる?」  ほら、やっぱり誘ってくれた。  果たして土曜日の朝に行く約束をして、祐樹はデートの約束が増えたとにっこりする。  孝弘がそんなことをこれっぽっちも思っていないのは承知の上だ。  朝6時という待ち合わせ時間に目を丸くすると、その時間の公園が楽しいのだと孝弘はいたずらっぽく笑った。  

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