122 / 157
27-6
翌朝、祐樹の熱はひとまず37.5度まで下がった。
祐樹は目が覚めて、朝いちばんに孝弘の病室に様子を見に行ったが、パジャマに着替えた孝弘は相変わらず静かに眠っていた。
昨日の夜、祐樹が頼んだ看護師はきちんと仕事をしてくれたようだ。
髪も顔もきれいに拭かれ、手足も泥などついていなかったのでほっとした。
静かな個室では点滴が規則正しく落ちる音まで聞こえそうだ。
「孝弘、起きて。もう朝になったよ」
声をかけてみても、反応はない。
髪をなでながら、やさしく何度も声をかける。
やはり、反応はなかった。
不安になった祐樹は、そっと布団をめくって孝弘の胸のうえに手のひらを当ててみた。
心臓がとくとくと音をたてているのが伝わってほっとした。
ちゃんとあたたかい。
孝弘の体温に触れて、涙がでそうになる。
どうしても直接触ってみたくなり、パジャマのボタンを外してそっと素肌に触れた。
人肌のぬくもりに安心する。
さっきよりもっと強く心臓の響きが手のひらに伝わってきた。
ゆっくりなでると、孝弘のまぶたがぴくりと動いた。はっと手を止める。
うっすら筋肉に覆われた胸をもう一度なでると、指先がふと乳首をかすめた。
孝弘の体がぴくっとかすかに動いた。
セクシャルな気持ちはないまま、反応したことがただ嬉しくて、もう一度そっと胸のさきに触れて軽く押してみる。
くすぐったいのか体はぴくっと動いたが目は覚まさない。
なんだかいけないいたずらをしている気分になって、そっと手を引いた。
頬が熱い。
また熱が上がりそうだ。
でも個室にしてよかったと思う。
こんなふうに、孝弘の体温を確かめることができるから。
「起きてよ、待ってるんだから」
話をしよう。
今まで言えなかった気持ちもちゃんと話すから。
5年前、言えなかったことや本当は言いたかったことも。今なら、ぜんぶ言える気がするのに。
額にそっと口づける。
男らしく大人になったと思っていたが、眠っているといつもより幼く見える。
おとぎ話じゃないんだから……と思うけれど、誘惑に逆らえず、顔を寄せて唇にもそっと触れてみた。
やはり目覚めない。
そりゃそうだ、キスで目覚めるなんて王子さまとお姫さまのおとぎ話の世界だ。
思った以上にがっかりしたが、孝弘の頬をなでて病室をでた。
ともだちにシェアしよう!