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 翌朝、祐樹の熱はひとまず37.5度まで下がった。  祐樹は目が覚めて、朝いちばんに孝弘の病室に様子を見に行ったが、パジャマに着替えた孝弘は相変わらず静かに眠っていた。  昨日の夜、祐樹が頼んだ看護師はきちんと仕事をしてくれたようだ。  髪も顔もきれいに拭かれ、手足も泥などついていなかったのでほっとした。  静かな個室では点滴が規則正しく落ちる音まで聞こえそうだ。 「孝弘、起きて。もう朝になったよ」  声をかけてみても、反応はない。  髪をなでながら、やさしく何度も声をかける。  やはり、反応はなかった。  不安になった祐樹は、そっと布団をめくって孝弘の胸のうえに手のひらを当ててみた。  心臓がとくとくと音をたてているのが伝わってほっとした。  ちゃんとあたたかい。  孝弘の体温に触れて、涙がでそうになる。  どうしても直接触ってみたくなり、パジャマのボタンを外してそっと素肌に触れた。  人肌のぬくもりに安心する。    さっきよりもっと強く心臓の響きが手のひらに伝わってきた。  ゆっくりなでると、孝弘のまぶたがぴくりと動いた。はっと手を止める。  うっすら筋肉に覆われた胸をもう一度なでると、指先がふと乳首をかすめた。  孝弘の体がぴくっとかすかに動いた。  セクシャルな気持ちはないまま、反応したことがただ嬉しくて、もう一度そっと胸のさきに触れて軽く押してみる。  くすぐったいのか体はぴくっと動いたが目は覚まさない。  なんだかいけないいたずらをしている気分になって、そっと手を引いた。  頬が熱い。  また熱が上がりそうだ。  でも個室にしてよかったと思う。  こんなふうに、孝弘の体温を確かめることができるから。 「起きてよ、待ってるんだから」  話をしよう。  今まで言えなかった気持ちもちゃんと話すから。  5年前、言えなかったことや本当は言いたかったことも。今なら、ぜんぶ言える気がするのに。  額にそっと口づける。  男らしく大人になったと思っていたが、眠っているといつもより幼く見える。  おとぎ話じゃないんだから……と思うけれど、誘惑に逆らえず、顔を寄せて唇にもそっと触れてみた。  やはり目覚めない。  そりゃそうだ、キスで目覚めるなんて王子さまとお姫さまのおとぎ話の世界だ。  思った以上にがっかりしたが、孝弘の頬をなでて病室をでた。

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