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天壇公園は祐樹の想像よりかなり広かった。
例によって外国人料金があり、中国人の数倍の見学料金が表示されていた。
チケット売り場で孝弘が学生証を見せて何か話している。戻ってきた孝弘が祐樹にチケットを渡した。外国人用のそれではなかった。
「たいていの場所で学割がきくんだ」
高橋さんも語学学校行ってるからと学生料金にしてもらったという。
「ありがとう。学割ってどのくらい安いの?」
「中国人と同じか中間くらい」
「へえ、意外と学生さんには優しいんだね」
公園内はとても広かった。
芝生や大きな広場がたくさんあり、そこで人々は太極拳をしたり、扇を手に舞い踊っていたり、剣舞を披露していたり、あるいは二胡を演奏していたりする。
「地元の人だよね。もっと観光客が多いのかと思ってた」
「まだ観光客は来ない時間だから。いまは日常の北京の朝」
あちこちにそんな10人から30人くらいのグループがあり、ラジカセでガンガン音楽を鳴らして体操したり踊ったりする光景はなかなか壮観で、おまえら朝からどんだけ元気やねんと思わず大阪弁で突っ込みたいほどだ。
「すごいパワーだね」
まだ朝の6時半。それなのにこの熱気、このパワー。
祐樹は目を丸くしっぱなしだ。
通勤途中にちょっとした広場で踊っているグループを目にすることはあったが、朝の公園でこんな光景が繰り広げられているとは知らなかった。
「去年の中国文化の授業で太極拳やって、あれって見た目そうでもないけど、けっこうな運動になるってわかったよ」
太極拳をしているグループを横目に孝弘が言うのに、祐樹は目を輝かせた。
「太極拳、できるの?」
「テストまであったから、全員必死になって寮で夜に練習したんだ」
あのポーズ一つ一つに意味があって、それも中国語で訊かれるから覚えるのが大変だったらしい。
「やってみせてよ」
祐樹がおもしろがってリクエストする。
「えー、やだよ。恥ずかしい」
めずらしく孝弘が照れて尻込みした。
そんな表情が新鮮で、祐樹は首をかたむけて ね?ととびきりのおねだりスマイルで頼んでみせた。
「見てみたいな。上野くんの太極拳。きっとかっこいいだろうな」
じっと祐樹の顔を見ていた孝弘が、はあっとため息をついた。
ずるいよな、そんな顔して、という声が聞こえた気がする。
「うーん、じゃあ、ちょっとだけな」
グループの端っこに入ると、すっとポーズを取って流れに乗って動き始めた。
ゆるやかな胡弓の曲に合わせて30人くらいの集団が、まったく同じ動きで太極拳をしているのは、なかなか見ものだった。
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