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「帰国直前まで家に泊めてやってたのに、帰国した途端、いっさい連絡も取り合ってないっていうし、上野はなんか知らんが落ち込んでるみたいだったし」
そっか、やっぱり落ち込んでたのか。
帰国後の孝弘の様子を思いがけず聞くことになり、祐樹はうろたえた。
そうだよな、あんな別れ方をして、傷つかないわけがない。
抱き合った翌朝に置き去りにされたと知って、孝弘は祐樹を恨んだだろうか。それとも、責めただろうか。
でもあの時はあれが最良だと思ったのだ。
一時的に傷ついたとしても、祐樹のことなど一刻も早く忘れてくれればいいとそれだけを願った。
今になって思えば、自分勝手だったと後悔しているけれど。
「一体、なんでけんかしたんだ?」
「いや、けんかっていうか……、あの、上野くんはなんて?」
返答に困って質問で返した。
「んー、なんて言ったっけな。高橋さんに失礼なことを言っちゃったんです、とか言ってたかな。酔っぱらって高橋さんを怒らせて、会わせる顔がないから自分からは連絡できないとか。でもあいつ、そんな失礼なことしないだろ。お前もちょっとやそっとのことじゃ怒らないだろうしさ。ほんとは何なの?」
安藤は詮索するというより、単純にふしぎに思っているようだ。
そして、こんな場面でも安藤が孝弘を信頼していることに祐樹はうれしくなった。
「えー…もう忘れました。ほんと些細な行き違いで。でも今はもう平気ですから」
安藤は納得しかねる顔だったが、過去の話をほじくり返す気はないらしい。
「それならいいんだけどな。上野とはこれから長いつき合いになるだろうし、ちゃんと仲直りしたんなら安心だな」
「え?」
祐樹がどういう意味かと訊ねようとしたとき、青木が慌ただしく戻ってきた。
「高橋くん、退院手続き、終わったぞ。どうする? いったんホテルに戻って、荷物まとめとくか? 俺は今日の午後にはここを発つことになったから、必要なことがあればそれまでに言ってくれ」
青木は電話のあと、病院の事務所にも行って来たらしい。
手続きの終わった用紙を祐樹に渡そうとする。
安藤がそれを横からさらった。
「青木、もういいぞ。あとのことは俺がちゃんとやっとくから、ホテル戻ってチェックアウトの用意しろよ。俺が来たんだし、安心して帰国しろ。高橋と上野の面倒はこっちで見るから」
「すみません、安藤さん、慌ただしくて。後のことよろしくお願いします。高橋、体調気をつけろよ。それから上野くんのこと、頼むな」
「こちらこそ、色々ありがとうございました。本当に、気をつけて帰国してください」
最後に孝弘の顔を見ていくというので、安藤も一緒に四人で孝弘の病室に向かう。
個室にいると聞いて、安藤は祐樹に向かってにやりとした。
中国駐在の長い安藤は、祐樹がどんな手を使ったのか、よく理解している。
「起きろよ、上野。もう朝になったぞ。お前の好きな春餅 、おごってやるからさ」
安藤はそう声をかけながら、そっと孝弘の肩を揺すってみた。孝弘の反応はない。
横から青木が心配そうな顔で別れを告げる。
「上野くん、先に戻るよ。今回はお世話になりました。また東京で会おう」
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