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 初対面でまず、外見が好みだと思った。 「いってーな」という日本語についふり向いて、まだ若い日本人を見たとき、その目つきの鋭さに引き寄せられた。  不機嫌そうな顔をしたかっこいい男の子だった。  路上で通訳に逃げられるというハプニングに困り果てて、お得意のにっこり笑顔で半ば強引に通訳を頼んでみたら、彼はとても困惑した顔をした。そりゃそうだろう。  でも好奇心旺盛なのか、事情を説明するうちにまあいいかという感じに引き受けてもらえた。  案外、世話好きなのか中国事情をあれこれ教えてくれて、クライアントの二人と一緒に驚きと発見に満ちたとても楽しい一日を過ごさせてもらった。  それで欲が出て、プライベートが知りたくなって食事に誘った。  ドイツビールの店で19歳と聞いて祐樹のほうが驚いた。  しっかりしているから、もう少し上かと思っていたのだ。  ゆっくり話をしてみたらますます好みで気持ちが弾んだ。  驚きの連続の留学生活を、不便も理不尽も飲み込んで楽しんでいる健やかさと図太さがとてもよかった。いいなと何度も思った。この子、好きだなと。  でもそれ以上、踏み込む気は起きなかった。  完全にストレートの未成年に手を出すわけにはいかない。  眺めるだけの片恋もいいかな。ちょっと切ないけれど、それも悪くない。だって、祐樹の研修期間は半年だ。  孝弘にはなにも告げず、ただひっそりと心のなかで恋愛ごっこを楽しんで、半年間の北京研修の思い出にしよう。祐樹は冷たいビールを飲みながらそう決心して、長城行きの手配を頼んだ。 「荷物はリュックで両手を空けたほうがいい。あと絶対履き慣れたスニーカーで。それと案外、標高が高くて涼しかったりするから、羽織るものも一枚持ってきて」  孝弘のアドバイス通りに荷物をつくった。  前の晩はうまく寝付けなかった。遠足前の子供じゃあるまいしと思ったが、楽しみで胸がとくとくして眠れないのだと認めざるを得なかった。  こんな気持ちになるのは久しぶりだった。  うまく気持ちをコントロールしなければ、と自戒をこめて眠りについた。

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