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 その話を聞いたときはそうだろうと頷いただけだったが、ゆうべ孝弘の寝顔を眺めながら彼との過去のあれこれを考えているうちに、ふと思い出したことがひとつあった。 「年下は好みじゃないんだ」  孝弘の告白を断ったときに、祐樹が言ったセリフ。  あの時はまさか孝弘がそんな告白をしてくるとは予想しておらず、祐樹も動揺していて何を言えばいいのか混乱していた。  だから、あれはとっさに口走ったといったほうがいいくらいの断り文句だった。  過去に年下とつき合ったことは確かにないが、べつに好みじゃないなんて言い切るほどはっきりした嫌悪があるわけじゃない。  ひょっとして、孝弘はあの一言を気にしていた?  だから早く年を取りたいとか、もっと早く生まれたかったなんて思っていたんだろうか。  もしそうだとしたら、悪いことをしたと思う。  相手の年をどうこう考えるほど、恋愛経験があるわけではなかった。  あの時はただ、とにかく穏便に断らなければという思いに突き動かされて、思わず口にしただけのことだったのだ。  東京に戻ったら、と祐樹は大きく息を吸った。  二人でゆっくり話をしよう。  今までのことも、そして、これからのことも。      

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