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第20話 エピローグ

「あー。くそ、だらしない」  朝を迎えての第一声がこれだった。出窓から入ってくる陽がまぶしい。  絶頂で気絶し、全部後始末もしてもらって、爆睡。  気がつけばもう昼近い時刻だ。リードするはずの経験者とは思えないていたらくだった。 「俺ももう年なのかな……」  タオルケットのかかった腹の腕で指を組み合わせ、ひとりごちる。  バスルームの扉が開く音がした。  居間に誠一郎が入ってくる。髪は濡れているが、こざっぱりとポロシャツに着替えている。 「目が覚めました?」  うきうきと微笑む。誠一郎はものすごく上機嫌だ。 「ごめん。一回で落ちるなんて、だらしないよな」  誠一郎は苦笑して、ベッドに腰掛けた。 「ユートさん、気持ちよかったですか?」 「うん、まあ、そりゃ。昨日の俺の反応見てたらわかるだろ」  直球の質問に、下を向いて答えた。 「僕もすごく幸せでした……」  誠一郎もにわかに頬を赤らめ、視線をそらせて言う。次の瞬間、優人の手をぎゅっと握った。 「また頑張りましょうね。もっとユートさんにしてあげたいことがいっぱいあるんです」  ふふふ、と大きな体で不敵に笑う。 ――あれ、竹林くんて清純派じゃなかったの……? 俺なんか変なスイッチ押したのかな?  二十代半ばを過ぎて、好きな相手と初めて結ばれたのだ。有頂天にもなるだろう。 「へえ、たのもしいな」  とりあえず口だけは、余裕を見せてみたものの。  喰うはずだった俺のほうが、喰われちゃうみたいだな。優人は内心苦笑する。  しかしちっとも嫌ではない。「変態様おまかせのユート」なのだから。このくらいの相手じゃないとヤりがいがないというものだ。 「ユートさん、ありがとう」  握っていた手の甲に、そっと唇をおしあてられた。騎士が忠誠を誓うように。 「さっきまで夢じゃないかって思ってたんです。バスルームから出てきたら、もうユートさんは消えていて……じつはユートさんの存在って、僕の童貞を卒業させるための妖精かなんかだったりしてって……」  優人はふきだした。 「すっごいシュール。竹林くんはあいかわらずだな。もっと自信持とうぜ」  くすくすと笑いあった。夏の陽に照らされたまぶしい笑顔だった。 「これから長い人生なんだから、いっぱい楽しもう」  狭いベッドの上で、きゅっと抱きしめられる。  クーラーの風にふわりとカーテンが揺れた。窓辺にはまん丸いサボテンが並ぶ。緑の賢者たちは、今日も黙ったまま。身も心も、恋人になったふたりを静かに見守っていた。 了

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