19 / 20

第19話 解禁日2

 じかに感じられる誠一郎の体温が嬉しくて、一生懸命のどの奥まで飲みこみ、口と手を使って愛撫を始める。 「あっ…………ユート、さんっ……」  顔をしかめて誠一郎はうめいた。ひきしまった腹が、しだいに荒くなる呼吸にあわせて大きく上下する。  唇で締めつけ、舌をつかって先端を刺激するたびに、口の中にほんの少し塩辛い味が広がっていく。先から少しずつ漏れてくる誠一郎の体液が、優人の欲情をさらにかきたてる。 「う、あ……ユートさん、もう……もういいです」  切迫感の伝わる声だった。誠一郎は上半身を起こした。膝の間にうずくまって奉仕を続ける優人の髪をかきまわすように撫でる。 「す、すごくいいです。……これ以上したら、もう、ここで終わっちゃいそうなので……」  息を乱しながら苦しげにいう。優人は顔をあげた。  誠一郎は目を細め、快楽でうかされた顔をしながら、必死で声をこらえて優人の髪に触れている。 「イって」 「ユートさん……」 「飲みたい」  優人は愛撫を激しくした。舌先を先端の穴に埋めこむ。  誠一郎が鋭い声をあげて腰をうかせた。そのすきにシーツとの間に手をさし入れて誠一郎の尻に触れた。両脇におおきなえくぼのできる男の尻は、力が入ってきゅっとすぼまっている。  腿の間から、少しもりあがった綴じ目を指でなぞるように撫であげた。先を咥えたまま、手で付け根から茎をつかんで口元までしごきあげた。 「あ、だめっ、です…………もう……ユートさんっ」  悲鳴のような声をあげて、誠一郎が優人の髪をつかんだ。なにかにすがるようだった。与えられる快感の大きさに驚き、どうしていいのかわからないようだ。性行為に慣れていない彼の反応が、優人には可愛らしくてたまらなかった。  優人は喉の奥で、放出される熱い滴を受けとめた。その勢いは誠一郎の生命力そのもののようで、うっとりと目を閉じて堪能した。 「あ……ほんとに、飲んじゃったんですか」  しばらくして我に返った誠一郎は唖然とした顔をしていた。絶頂の余韻からか、少し目がうるんでいる。 「うん」  満足げににんまり笑ってみせた。先に果ててしまって少しきまりの悪そうな顔をした誠一郎がやがて体を起こすと、ユートの肩を抱いて押し倒し、上下を入れかえた。  もう一度仕切りなおしするような、深いキス。首筋、胸、腹、と順々に誠一郎のキスを受けていく。 「自分で、ほぐせるから、いい」  尻の奥を指先でかすめられ、優人は、思わず脚を閉じていた。 「ちゃんとやらせてください。もちろん……今はあんまりうまくないと思いますけど……でも、ユートさんの中に、触れたい、です」  熱っぽくささやかれると、優人はよけいに羞恥心が湧くような気がした。 「あんま、綺麗なところじゃないし」  もとともストレートだった誠一郎に、男の尻を見せていじらせるのは、怖い気がした。土壇場で幻滅されるのではないかと、ほんの少し不安になる。 「どうして……今になって、そんな意地悪言うんですか」  曲げた膝のあいだから誠一郎がせつなげになじる。すでに少し涙目になっているのをみると、優人は急に、ひとりでためらっていたのが、くだらないことのように感じられた。 「うん……じゃあ、して」  目を閉じた。ごくり、と誠一郎の喉がかすかになるのがきこえた。 「痛かったら、言ってください」  内腿をやさしく撫でさすられたあと、たっぷり潤滑剤をまぶした指が、優人のすぼまりに触れた。  思わず身をよじり、腰をうかしかけたところで、つぷりとその指先が体にうめこまれた。 「ん、は……」  今まで、客や一夜かぎりの遊び相手をこなしてきたように、うまく力を抜こうと思うのに、なぜか優人の体は緊張したままだった。 「少しきついですね。ゆっくり動かしますね」  誠一郎のやさしい声がして、閉じたままの瞼にあたたかい唇がふれた。 「普段は、もっと、簡単にできるのに、な」 「初めてなので、しょうがないです」  少ししょんぼりしていう誠一郎の声をきいたとたんに、優人はさとった。初めてでうまくできないのは誠一郎ではなく、きっと自分のほうだ。 ――だってしょうがないじゃんか。  優人は自分に悪態をついた。こんなに恥ずかしくて、嬉しいセックスは初めてなのだ。  今だけヤりたいわけじゃない。これからもこの人とずっと壊れない関係を築きたい。そのために、すべてをさらけだしたい。そんな気持ちになれたのは、誠一郎が初めてなのだ。  優人は熱い息を吐いた。自分の中で動く誠一郎の指は、不器用でもどかしい。それなのに、どんどん自分が高まっているのがわかる。 「もういい。挿れて」 「でも……」 「もう、欲しい」  ねだる声は抑えようもない欲情に濡れていた。  ずるり、と指が抜かれた。ああ、と優人はうめいた。潤滑剤がねばる水音がする。それを聞くだけで、また軽く喘ぎそうになる。  最初は『俺が騎乗位でめちゃめちゃサービスしてやる』くらいのことを考えていた。それなのに、今はすっかり腰がくだけて、ただなされるがままにぐったりと横たわっている。誠一郎が膝の後ろに手をかけ、脚を大きく開かせた。  股間をおしひろげられ、優人の花座は今、誠一郎の目の前で淫靡にひくついているだろう。そう思うと、顔から火がでるような羞恥に襲われ、片腕で目をおおっていた。 「ユートさん、大丈夫、ですか?」 「うん」 「ほんとに?」 「うん」 「僕の目を見てください」  優人はおそるおそる腕を頭上にもっていった。目の前に優人の膝を持ち上げて前屈みになった誠一郎がいる。 「脚が震えてますよ。本当は、怖い、ですか?」 「え、あ」  一度、膝が下ろされて、誠一郎のやさしい顔が近づいてきた。 「ほんとうは、僕とするの、まだ怖いんじゃないですか」  あくまでも穏やかに、しかしきわめて真剣に問いかけられる。  優人は両手をさしだした。誠一郎の表情は、けして卑屈ではなく、あくまで優人のことを心配している様子だった。 「……そりゃ、怖いよ。俺だって、こんなに好きな人とセックスするの、初めてだもん。あんだけ経験豊富って顔してきて……今さらどんな顔してつっこまれたらいいのか、わかんないんだよ」  笑っちゃうよな。やけくそのようにつぶやいた優人の言葉。  誠一郎の黒目が一瞬小さくなり、それから一瞬で欲をたぎらせる男の顔にもどった。 「ユートさんは、どんな顔でも可愛いし、最高にエロいですよ」  低い声でささやき、もう一度口づけをおとされた。 「なにその余裕」  優人がくやしげにつぶやいたとき―― 「ん、あああっ」  体の中に、彼の存在が埋め込まれた。 「ん、んん」  侵入してくる熱に、体をそらせて耐える。 「苦しい、ですか?」  優人はうっすら涙の膜を張った目で、誠一郎をみあげた。  いたわるような恋人の言葉は、優人の過去の行いに突き刺さる。 「……ごめんね。俺、気持ちよくできないかも。今までさんざん遊んできたから。もうケツもガバガバで……」  自虐的に言いかけた口に、そっと人差し指をあてられた。 「すごく、いいです。ナカ熱くて。こんなに誰かとつながるのが気持ちいいなんて……」 「誠一郎」  じわりとうかんだ涙が、一筋、頬を横切ってシーツまで落ちていった。  嬉しい。優人は泣きながら微笑んでいた。誠一郎が自分の内部にいるのがこんなに嬉しいなんて。  体の内部から彼の形を感じたくて、必死に締めつけているのがわかる。たっぷり濡らされたそこに硬くなった欲望をこすりつけられている。それがわかるだけで、ぞくぞくと肌が泡立つような悦びが優人の背中をかけのぼった。 「動いて、いいですか」  そこからは、誠一郎の動きにあわせて、ただ喘いだ。  体内に深くうがたれた楔が、優人の全身に電流のような快感をつたえて、何度も喉をのけぞらせる。大きな動きで引き抜かれ、また深くまで満たされる。  潮の満ち引きのような繰り返しに、優人はむせび泣いた。  たたきつけるような波に快楽の高みまでおしあげられ、甘い声をあげて喘ぎ悶えた。  そのあとは、転落するようにひきおとされ、必死で誠一郎の肩にしがみつく。  ふたりともあまり長くはもたなかった。  やがて耐えきれぬ大波に翻弄されて、とうとう優人は絶頂を迎えた。  背中が勝手に弓なりにのけぞり、頭が真っ白になった。抜き差しされるあいだ、優人の腹を叩いていたそれが、断続的に白濁を吐きだす。そのたびに、甘美な刺激の余韻が、優人の体をしびれさせた。  涙で濡れた目で誠一郎を見ると、彼もまた、きゅっと眉をよせて、びくり、と一瞬身をふるわせた。  優人の中の彼自身が跳ね上がり、熱い滴をほとばしらせた。  優人はこらえきれず、また声をあげて身をよじった。新しい快感に脳内が塗りつぶされ、意識が遠のいていく。  愛しい誠一郎が、何度も名前を呼ぶ。その声すらもだんだんと遠ざかっていった。

ともだちにシェアしよう!