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第27話
そんな風にして、なんだかんだありつつも無事映画の撮影を終えた後、俺はたびたび真神くんの家を訪ねるようになった。
最近は首の隠れる服を着るようにしているけれど、それも面倒だからそのうちこのこともバラしてしまいたいと思うようになり、タイミングを計っている。
「皐さん、公表の件なんですけど」
そして真神くんがそんな話を持ち出してきたのは、真神くんの家に泊まった日の朝、シャワー上がりのことだった。
「授賞式の時なんてどうです?」
「お、自信満々だねぇ」
濡れた髪の毛をタオルで拭きながらの軽い口調に、思わず口笛を吹きそうになった。それはつまり、まだ公開前の映画で賞を取る自信があるということだ。
もちろん俺だって誇れる作品になったとは思うけれど、それにしたってその自信はすごい。
けれど人気絶頂のアルファ様は茶化す俺を鼻で笑ってみせる。
「当然ですよ。俺を誰だと思ってるんですか」
「演技がうまくてかっこいいアルファで、エロくて、実は一途で、大好きな俺の自慢の番」
「は? あんまり可愛いこと言うと今から仕事行けなくしますよ」
「君はどうしてそんな複雑な脅し方をするんだい」
これから朝ご飯にオムレツを作ってやろうとしている俺に向かってなぜ急に襲う宣言をしてくるんだ。アイドルではないにしてもアイドル的人気があるんだから言動にはもうちょっと注意してもらいたい。
そうやって注意する俺に、真神くんは後ろから抱きつくようにして腰に手を回してきた。まったく、いちいちドラマみたいな仕草をナチュラルにするなぁこの子。
「ねえ皐さん、今度ウサギ耳つけて。そしたら俺が背びれつけて身ぐるみはぐから」
「君、よく自分の初恋の思い出そういう形で汚せるね!」
「用意するから今夜」
「見習いたい行動力だな!」
嫌だよ、忙しい仕事の合間にせっせとウサギ耳と鮫の背びれを調達する若手俳優。
このままじゃつっこみのスキルが無駄に上がりそうだとため息をついて、真神くんの方を振り返る。そして押し留めるように人差し指で鼻先を指した。
「今日はダメだよ。俺、新しい舞台のセリフ覚えなきゃ」
「じゃあ読み合わせの相手するし立ち稽古も付き合うし初日には花も贈るし見に行って楽屋に差し入れもするから」
「必死すぎて可愛いけどまた今度ね。ほら、君もお仕事でしょう。用意用意」
今すぐキスしそうな勢いで迫ってくる真神くんを両手で押し戻すと、それ以上近づくなと卵を装備する。
さすがに本気で手を出す気はなかったのか、大人しく離れた真神くんはそれでも不満顔。
「皐さんのけちんぼ。そういうこと言うと、最優秀主演賞取って壇上から告白しますからね」
「だから本当に君の脅迫の仕方は独特で恐いな!」
なにより本当にやりそうだから恐い。
とりあえず事務所に事情を話して、真神くんの事務所にも話しにいかなきゃならないし、新しい仕事のこともあってやることは盛りだくさんだ。
頬を叩いて気合を入れて、それから首筋に触れてその跡を確認して小さく笑う。確かに、「一人じゃないから負けてらんないぞ」だ。
「よーし、今日も頑張るぞ!」
「……ウサ耳」
「それは頑張らない」
え、賞の結果?
それは授賞式の次の日、新聞を騒がす見出しを見ればいいんじゃないかな?
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