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第26話

「柴さん……」 「お、ウサちゃん。どうしたの? 今日早いね」  次の日。遊園地ロケの場所からそのまま移動した別のスタジオにて、なにより先に柴さんのいるメイクルームへ向かった。  周りを窺い他に人がいないことを確かめてから、まだ準備中だった柴さんの前でかぶったままだったフードを外す。 「実は、こういうわけでして」 「わお!」  俺が首をひねって首筋についた跡を見せた途端、柴さんは手に持っていたメイク道具を放り投げた。なんともアメリカンな驚き方だ。  とりあえず落ちた道具を拾って渡すと、柴さんは受け取り並べながら納得したように息を吐いた。 「そうかぁ。みーくんがついにやったかー」 「みーくん?」 「まかみーくん。急に番について聞きたいとか言ってきたからそうじゃないかと思ってたけど、撮影中とはやりよるなあいつ」 「いや、ちょっと予定外というか訳ありでして」  そんな呼び方をしていたのか、という新発見は後回しにして。  このタイミングは本当に予期せぬことで、決して撮影中に遊んでいたわけではないんですとかいつまんで事情を話すと、柴さんはふんふんと頷きながら聞いてくれた。  そして最初に戻って今の問題点を晒す。今回はちゃんと消えなかったくっきりとした歯型。これをそのままで撮影に臨むわけにはいかない。 「なんとかなります……?」 「任せて。何年この業界やってると思ってんの」  腕まくりをしてはりきる柴さんはやっぱり中学生にしか見えないけれど、とても心強くて頼りになるお兄さんだった。  本当に、何年やってるんだろう……?  その後、柴さんのメイク技術によって何事もなかったかのように仕上げてもらったまっさらな首で撮影に挑み、無事やりきることができた。  本来ならヒート中だとは思えないくらい体が軽く、気持ちまで軽くなって思いきり演じられたし、NGなしで撮影終了。  真神くんはメイク後の俺の首を見て持っていたペットボトルを落とすくらい動揺はしていたけれど、役に入ればそんなことは微塵も感じさせず、しっかりとシュウリ役をやり遂げた。  ……ただなぜか八尋さんにはしっかりバレたし、隠れてめちゃくちゃいじられたし、なんなら噛み跡の上から噛まれた。  さすがにそれには慌てて逃げたけど、その際呟かれた「人のものって、なんでこう魅力的なんだろうね」という恐ろしい先輩の言葉は聞かなかったことにしようと思う。

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