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第140話 繋がり

『ブルーウェーブタカとRINGのユウ、先輩後輩を越えた仲?』  この報道に、伊藤と翔太は頭を抱えていた。ついに世間に疑いの目が向けられた。写真は手を繋いで歩く姿、アクセサリーショップに入る姿、店員の証言などの詳細が書かれていた。  「良かった…ユウはちゃんとタカさんを選んだんだ」  青木は少しホッとしてこの報道を見ていた。事務所は大慌てだが、青木は何がいけないんだと思っていた。  (ユウが一瞬ブレだ時、傷が抉られそうだった。タカさんには勝てないと思ったから…お似合いだと思ったから…)  「大地!」  「はっ!…正樹…ごめん」  「いいや、構わないけど。大丈夫か?」  「うん。考えごと。」  「ユウさんのこと?」  「うん、ユウとタカさんの2人のこと。」  どうなるんだ?と、正樹は心配そうに青木の隣に腰掛けた。  「さぁ?ここからは、事務所の判断だから…」  「そっか。…なぁ、僕たちも…」  「バレたらヤバイよ。でも、正樹と離れるつもりはない。」 「大地…」  「正樹に迷惑になるなら…離れるかもしれないけど…。俺の気持ちは、離れたくない、だよ」  ありがとう、と笑ってキスしてくるのを受け止める。テレビにはずっと2人の幸せそうな顔が映り続けた。  ーーーー  「タカ!あれほど気をつけろって言っただろ!」  「岡田さん、怒っても仕方ないよ。今の最善を考えよう。」 会議室に呼び出された2人は、反省している様子は全く無かった。2人の左手の薬指に光るリングが揺るがない意志を感じさせた。  「俺は、公表してもいいと思っています。どんな誹謗中傷も覚悟しています。」  「俺もです。伊藤さん、翔太さん、ご迷惑かけてごめんなさい。」  「グループにも、ファンにも影響するんだぞ!」  翔太が頭を抱えると、優一は決意したように伊藤を呼んだ。  「伊藤さん、俺、引退するよ」  「「「は!!?」」」  優一の言葉に全員が驚く。  「ずっと迷惑かけてきたのに、これ以上は甘えられないよ。頑張ろうって思ってたけど、やっぱり迷惑かけてまでやることじゃないと思う。俺、一般人に戻るよ」  「そん…な。ユウ、そんなこと言わないでくれよ…良い方法があるかもしれないだろ…?俺は、5人の…RINGが、」  震える伊藤の声に、優一はハッと固まった。翔太も辛そうに見て、タカは優一を止めた。  「簡単に降りられる船じゃないんだよ。俺達のために、たくさんの人が関わっている。」  「でも…っ」  「翔太さん、伊藤さん。やっぱり俺、公表したい。メンバーに確認してもいいかな?」  「タカ…」  「ユウ!ユウも、メンバーがいいなら、いいだろう?やっていける環境を作るように努力するから…っ、俺はRINGにはユウがいないとダメだと思ってる!だから」  伊藤の熱量に、優一は目を潤ませてありがとうございますと笑った。  ーーーー  「公表…?だ、大丈夫なのか?そんなこと…」  「俺はいいと思うよ。事実だし。」  「青木…っ、簡単に言うなよ。ユウの未来がかってるんだぞ」  「本人がそうしたいって言ったんでしょ?俺たちは背中を押して、またいつも通り守ればいい。」  青木の言葉に、大河、レイ、誠、伊藤が驚いた様子だった。その反応にキョトンとしていると、レイがニカッと笑った。  「そうだな!俺たちは何も変わらない!ユウの背中を押そう!」  まだ不安そうな誠と大河は下を向いたままだった。明日は我が身。そう思うと覚悟が出来ないんだろう。レイは会社員の伊藤さん。同じく青木も、会社員の正樹。どちらも一般人。大河と誠とはリスクが違うからだ。  「俺は…怖いよ」  「大河さん…」  「また、ユウが、あの時に戻ったら?…もう俺たちのところにいたくないって、そう言ったらどうするんだよ!…世間の声は厳しい!だから、だから、どうにか隠すことはできないかな?」  泣きそうな声で言う大河を誠が背中を摩った。  「タカさんも、優くんも、今は盛り上がっちゃってるだけだよ。タカさんは今回、diceの風磨のせいで不安定だったし…。もう一度冷静になって貰って、仲がいい先輩後輩です、で通そうよ」  「できたらやってる。1番の決め手はこれだ」  2人のキスしている写真に全員が息を呑む。  (こんなハッキリ撮られてるの…)  伊藤は頭を抱えて、小さな声で言った。  「ユウは、迷惑をかけたくないから、引退すると言った」  「「「「え!!?」」」」  「俺は…5人のRINGが好きだ。ユウを失いたくない。でも…これは…俺のエゴだよ。お前達はどうしたい?」  顔を上げた伊藤は、今にも涙が落ちそうな顔で笑ってみせた。  「5人じゃなきゃ、意味がない。」  「あぁ。大河の言う通りだ。」  「優くんがいないなんてRINGじゃないよ」  「ユウは、俺たちが守ろう」  優一の意向を汲んで、RINGは公表を許可した。  ーーーー  「RINGもブルーウェーブも公表希望か…」  「「はい」」  社長はため息を吐いて、公表予定の原稿を読んでは頭を抱えた。  「覚悟はあると?」  「「はい」」  「ブルーウェーブは、あっさり決まりました。タカがしたいならそうすればいいって。」  「RINGは…公表して、みんなでユウを守っていきます。」  原稿には、2人の直筆のサインがあった。これをこれからマスコミ各社に流す。  「…分かった。」  社長も重たい判断を行い、情報がとんだ。  ーーーー  『速報です!人気アイドルグループ、ブルーウェーブのタカと、RINGのユウが正式に熱愛を認めました。2人の連名で事務所から送られてきた文書では、約5年ほどの交際、3年間の同棲が発表されました。アイドルの同性カップルに世間は驚きの声が広がっています』  「公表…したんだな。ユウさんたち」  「うん。」  「カッコいいな、2人とも。」  「うん。羨ましくて…悔しい」  「大地…」  「ユウが好きだった。でも、ここまでは俺はできなかった。良かった…ユウの隣にタカさんがいて」  「うん、良かったな…」  「大河さんは、怯えてた。マコちゃんも。普通はそうだよね…なのに、ユウは、RINGよりも、自分の未来よりもタカさんを選んだ。」  「ユウさんもカッコいいな。」  正樹が膝の上に乗ってきたのを抱きしめる。  「大地、大丈夫大丈夫」  「うん、うん」  「世間はきっと、2人を応援してくれるから。」  「うん、っ、うん」  「僕だって、覚悟できてるぞ」  「っ、っえ?」  「でも大地のファン怖そー」  「正樹っ、」  「僕だって、何があっても大地を選ぶし!なめんなよ!もう離してやんねーよ?」  「あ…。あっはは!もう!正樹!」  嬉しすぎて、強く抱きしめる。安心するタバコと香水が混ざった正樹の匂いを胸いっぱいに吸い込む。  「正樹、抱いていい?」  「うん。気が済むまでどーぞ。」  電気を消して、寝室のカーテンを開ける。夜景が綺麗で、そして、綺麗な顔でベッドに誘う恋人に理性がとんだ。  グチグチと生々しい音を立てて、正樹の中をくすぐると、ぎゅっと締め付けては震えて甘い声を出す。 「っはぁっ、んっ、んぅ!っ!っぁ!」  「正樹、もぅ、」  「いいよ、っ、いれて」  「ん、っ、いくよ…っ、」 「っく!っぅ、ッァアア!!!」  「はっ、はっ、はっ、はっ!」  「大地っ、激しっ、っんッァアア!!」 ガツガツと腰を振って、いろんな感情を発散する。正樹が全部受け止めてくれて、いつもは意識を飛ばすけど、必死についてきてくれた。何度も何度も吐き出して、それでも頭を撫でてくれて、泣きたいくらい幸せだと思った。  ピピピピ ピピピピ  「正樹、朝だよ」 「痛っ…っ、ぅ、」  「正樹!大丈夫!?ごめんね!」  「いいから…。会社行ってくる…」  「そんなグロッキーで…休めないの?」  「月末だぞ?無理無理。」  気怠そうにスーツを着て、コートを羽織る。  「いってらっしゃい」 「行ってきます。あ。」  「ん?忘れ物?取ってくるよ」  革靴を履いてしまった正樹の代わりにと声をかけると、コートのポケットから、可愛い箱を出した。  「…そうだそうだ。これ、大地にあげようと思って。」  「え?」  「僕の、覚悟。言っとくけど、舞ちゃんにあげようと思ってたやつより奮発してるからな!」  その後正樹は時計を見て驚き、バタバタと去っていった。  青木は唖然としながら箱を開けると、綺麗なリングが2つ。  「ーーっ!」  ヘナヘナと座り込み、箱を床に置いた。  「やっば……。これはたしかに…公表してもいいかと思っちゃう」  リングのクッションの下に、紙が挟まっているのに気付いて、そっとクッションを外すと、手紙があった。  『大地へ   愛してるよ   ずっと支え合っていこう   正樹』  パタパタとフローリングに落ちる。  嬉しいと愛しいで溢れて涙が止まらない。  「正樹ってば、っ、はは、照れ屋さんだなぁ」  嬉しくて、リングをはめて、自撮りを正樹に送った。  正樹:超似合うじゃん  大地:ありがとう!俺も愛してるよ! 青木は昨日の鬱々とした気持ちがさっぱり晴れているのが分かった。 いつものようにSNSをチェックすると、意外にも2人を祝福する声が上がっていた。  (オーディションの時とか、コンサートのキスも…たくさんあがってる)  たくさんの画像が上がる中、その画像の2人はやっぱり幸せそうで、青木も嬉しくなった。  ーーーー 「えっ?タカさんとユウのダブルキャスティング?」  送迎車に乗ると、伊藤が嬉しそうに報告してきた。公表したことで、各所からオファーが来ているそうだ。  「ユウもやる気でいっぱいだし…はぁぁぁ…よかったぁ…」  「良かった!世間も認めてくれて!」  「認めたわけじゃないさ…興味と話題性だ。どこの局もいい人ぶって特集組んで、数字を取りたいだけだ」  「うぅ…大人って怖い」  「タカもユウも分かってる。全て処理します、って張り切ってるよ。公開惚気に引いてしまえってさ。…はは、あのバカップルはもうどうしようもないよ」  そう言う伊藤は幸せそうに笑った。  もしかしたら1番RINGを愛している人なのだろうと思った。  「伊藤さん、あのね、今日正樹から指輪貰っちゃった」  「おお!良かったな!どれどれ」  赤信号でリングを見せると、素敵だな、と笑ってくれた。  「なんか俺たちみんなしてリングして…ふふっ!こんな小さなアクセサリーが、この世で1番の幸せと繋がるんだから…不思議だよな」  「本当にね!」 「RINGって名前もなんか繋がるな」  「うん。これからも、繋いでいこ。いろんな人と幸せを」  元気よく言うと、伊藤は蕩けそうな笑顔で頷いた。  『RING』  完

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