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第139話 運命の人③

タカと匠が出した動画は一気に再生数があがり、華々しいデビューをしたdice。いそがしいはずなのに、タカは何度も匠と連絡を取り合っている。  (なんだよ…匠さんばっかり…)  優一は不安で押し潰されそうになっていた。運命の人騒動から、RINGのメンバーにも相談しずらくて1人で耐えるしかなかった。  (俺が揺らいだからだ…。でも、今はdiceの動画で風磨を見ても何も思わない。…てことはやっぱり勘違い。)  自分の流されやすさにため息を吐いて、もう一度タカと匠の動画を見る。  (やっぱ、嫌だ。ムカつく)  パソコンの電源を強制終了して、久しぶりに一人で街に出ようと決めた。  ーー  「うー…外は寒くなってきた。すっかり冬だ」  クリスマスが近いのか、道路脇の木々には電飾が施されている。  (日が暮れたら綺麗だろうなぁ)  こうして外を歩くのも久しぶりで、緊張よりも気分が良くてマスクの下で口角があがる。今まで部屋にこもっていたが、本来はこうして街を歩いたりショッピングしたりすることが好きだった。  「変わっちゃたな…俺。」  笑顔で通り過ぎる人が幸せそうに見えて、少し泣きそうになった。お互いに寄り添って、この寒さを凌いで…そして笑顔で温かいお店に入っていく。そして、店からは男性が1人で、照れたように紙袋を持って出て行く。 (プロポーズかな?成功しますように)  思わず笑って、空を見上げる。そっとピアスを触って、ヒヤリとした感覚が不安になった。  (もっと強く繋がりたいな…。俺も、指輪をあげたいな)  でも、匠と連絡をとるタカを思い出して、気持ちが冷えていく。お店に行くのを躊躇してしまった。 「…やだなぁ……。戻りたいな。ただ、夢を追っていた時代に。普通の生活に。」  歩道で立ち止まって、次の一歩が踏み出せない。このまま歩いていいのか、戻った方がいいのか、分からなくなった。  (ドームが終わったら…もう、辞めようかな。全部リセットして…新しい環境で…新しい夢を見つけて…)  そう思ったけど、あと数ヶ月に耐えられなくなりそうだった。  ドクン ドクン  ドクドク ドクドク  ドッ ドッ ドッ ドッ 「はっ…はっ、は、」  (嘘だ!なんでっ…!) こんな街中で、と焦ってパニックになる。周りには誰もいない。必死に呼吸をして、ガタガタ震える手をぎゅっと握る。  (どうしよう、どうしよう!!) 目の前がチカチカしてきてぎゅっと目を閉じた時 「優くん!!」  「ユウ!!」  力強く抱きしめられて、驚いた拍子に息を吐く事ができた。  「大河!マコ!早く乗せろ!!」    「キャーー!!RINGがいる!!」  「え!!ユウだ!ユウー!」 「握手してください!!」  2人に両脇を抱えられてバンに乗せられた。ドアを急いでしめて、フルスモークのバンは走り出す。  「優くん」  「ぅっ、うっ、ぅわぁあぁあん!!」  「大丈夫、大丈夫」  誠に抱きしめられながら大声で泣いた。  ーーーー  「ん、起きたか?」  目を覚ますと、大河の部屋にいた。仕事帰りだったようで、落ち着く空間にホッとした。  「大河さん…ごめん、ありがとう」  「珍しいな、外にいたなんて。買い物か?」  「ちょっと気分転換に…。」  そっか、と笑う大河が綺麗で、心が穏やかになる。  「タカさんに…指輪をあげようと思ったけど…自信なくなっちゃって…えへへ、恥ずかしや」  「指輪?」  「うん。このピアス…お揃いなんだけどさ…足りない気がして」  下を向いて、苦笑いする。恥ずかしくて情けなくてダサいなと思った。  「マコがさ…街中で立ち止まってるお前を見て、伊藤さんを止めさせたんだ。よかったよマコがいて。俺寝てたから気付けなかったかも」  「気付いてくれたんだ…」  「あぁ。さすがだよな、マコは」  大河は誇らしそうにそう言って優一の頭を撫でた。  「ユウ、抱えてるもん、出してみろ」  「えっ」  「聞いたぞ。運命の人が現れたんだろ?」  「運命なんかじゃない。俺は流されただけ…あの時は、そうかも、と思うくらい動揺したけどね…」  目が逸らせなかった。  捕まった、と冷や汗も出た。ハグされた時の安心感も怖かった。  (でも、俺はタカさんを離したくなかった)  「運命ってあんのかな…」  「あるとは思う。だってまこちゃんは、大河さんを見た瞬間に惚れてたもん」  そう言うと照れたように下を向いた。  「実はさ…俺も、マコとユウが歌った時あるだろ?あの時、マコに捕まったって思った。目が逸らせなくて…でも恐怖はなかった。あったのは安心感かな」  「……」  「もしも運命があるとして…、タカさんはお前を、運命の人だと思ってると思うぞ」  「っ!」  「お前の居場所は、ここと、タカさんのところだろ?」  「ここも?」  「違うのか?」  「違わない。ありがとう。大河さん、一緒に付き合ってくれない?」  「行くか」  マフラーをグルグル巻きにされてニット帽も被される。  「大河さん苦しいよ、暑い」  「ダメだ!厚着しろ!」  大河も同じようにマフラーを巻いて手袋をはめ、手を伸ばしてきた。  「ほら、行くぞ」  「うわぁっカッコイイ…」  思わず見惚れると強引に腕を取られ、外に出た。  「寒っ!!!」  「だから言っただろ。全く」  「ね!イルミネーション見れるかな?」  「あー…たぶんな。」  「あれ?あんまり好きじゃない?」  「いや?…ただ、タカさんに殺されないかなって」  「なんで?」  「クリスマス特集の収録の時にさ、優一とイルミネーションデートがしたい、って言ってたから。でも人混み嫌いだしなって」  それを先に俺が、と悩ましい顔をする大河に笑う。タカがデートをしたいと思ってくれたことも嬉しくて大河の腕にくっついた。  「あったかいね!」  「お前ほんとあざといよな〜」  「何でだよ!あったかいでしょ?」  こっちを向いてくれない大河をじっと見つめると、目線だけこちらに向けて笑ってくれた。  「かっっこいぃーーッ!」  「うるさいなっ!静かにしろ!」  ぎゃーぎゃー騒ぎながら、キラキラの街並みに入っていった。先ほどは歩けなくなったのに、今は足取りが軽くて、隣も温かくて幸せだと思った。  「うーーん?サイズ?」  「お前!知らないで来たのかよ!」  綺麗なリングが並ぶ中、綺麗な店員さんにサイズを聞かれて驚いた優一はあたふたした。大河は頭を抱えて、誠に連絡した。  「マコ、ごめん、撮影中?」  『今はタカさんの番だよ。どうしたの?』  「ユウがさ、タカさんに指輪あげたいとか言ってお店に来たけどさぁ、こいつサイズ知らないんだって」  『えぇー!?あっはは!そうだったの?スタイリストさんに聞いてから連絡するね!』  隣で会話を聞いていた優一は恥ずかしくて下を向いた。店員さんは、可愛いデザインのものを勧めてくるのに困っていると、大河も苦笑いした。  (「大河さんどうしよう。女性に、と思ってるよね?」)  (「たぶんな。マコすげぇなどうやって買ったんだ」)  明らかに優一よりは太いタカの指。優一のサイズは伝えているから驚かれるのだろう。  「そういえば、伊藤さんの指輪見たか?」  「ううん?指輪?」  「レイのメンバーカラーのエメラルドがついてんだぜ!レイにぞっこんだな!」  「キャー!そうなの!?俺もサファイア入れちゃおうかな?」  そう思って店内をうろうろしていると、これしか見えない、というほど素敵なリングを見つけた。  「ユウ…これは高くね?」  「でも、これがいい。」  「おいおい、これならペアじゃ無理だろ」  「う…。そうだよねぇ。一個だけにしようかな?」  「タカさんのだけ?」  「うん。どうしてもこれをあげたい」  他のショーケースには目がいかなくなり、サイズの連絡が来た瞬間に購入した。  「お前、もう仕事辞めるとか言えないからな!?こんな高いもの…」  「えへへ!頑張らなくっちゃあ!」  「全く…頑固だな。妥協ってのを知らないのか」  「これ以外いいのなかったんだもん」  紙袋を抱きしめる。  あの男性もこんな幸せな気持ちだったんだと笑う。すぐにあげたいが、大河に特別な時まで我慢しろと言われてうずうずする。  「ただいま…。あ!お疲れ様です!」  「おかえりー!」  「おかえり、大河ありがとうな」  「いえ!」  誠の部屋に行くと誠とタカが帰りを待っていた。優一はサッとうしろに紙袋を隠してドキドキした。  (あげたい、もう渡したい)  「優一、気分転換できたか?」  「ぅ、っ、」  「優一?」  「大河さん、ダメだ、もう我慢できない」  「トイレか?早く行ってこい」  全員がきょとんとする中、優一はタカの前にズンズン歩いていき、紙袋を差し出した。  「タカさん!!大好きです!受け取ってくださいっっ!!」  「へ?」  「我慢って、そっちかよ…せっかちめ…」  大河はあちゃーと頭を抱えた。誠はニヤニヤしながら頬杖をついてタカと優一を見ている。  「…俺に?」  「うん!」  「…?え、今日何の日?」  「なんでもない日です。タカさんもう受け取ってあげてください」  大河に言われ、不思議そうに受け取って、箱を出すと、察したのか目を見開く。  「優一…これ、」  「中も!中も見て!」  優一はあの綺麗なリングを見せたくてうずうずしていた。ブルーの箱から綺麗なプラチナにサファイアが乗ったリング。  「すげ…綺麗だな」  「うん。お店で1番綺麗だったの!」  満足そうに笑っていると、ぎゅっと強く抱きしめられた。  「タカさん?」  「なんだよ、この不意打ち…」  「嫌だった?サイズもピッタリなはずだよ?マコちゃんに聞いたから…あ。」  自分で墓穴を掘って、笑って誤魔化した。タカは嬉しそうに笑って、左手の薬指にそっと通した。  「似合うか?」  「うん!やっぱりこれにしてよかったぁ!!」  あまりにもマッチしていて小躍りすると、また捕まって、腕を引かれた。  「「お幸せに〜」」  その声を背に受けて、転びそうになりながら靴に足を入れ、引っ張られるまま駐車場に行き、車に乗せられた。タカは運転席に乗ると、助手席の優一の後頭部を掴み、激しいキスをしてきた。  「んっ!んっ、ふぁっ、んぅ」  意識がぼんやりしてきて、タカの背中を握る。  ガタガタ  「わぁ!?…ンッ!んぅ!ん!」  シートが倒されて、タカの体が上に乗る。逆光で表情がわからない。  「んっ、ん!んー!」  だんだん苦しくなってタカの胸を叩き、少し顔が離れたところで呼吸をする。  「っ!!」  見上げたタカの顔があまりにも幸せそうで、泣きそうで、息が止まった。  「優一、嬉しすぎて…」  ポタポタと涙が落ちてくる。こんなにも喜んでくれるんだと、優一も鏡のように涙を流した。  タカは無言で車を走らせる。  泣いたのが恥ずかしかったのが分かって、優一はクスクス笑う。  窓の外を見ると綺麗なイルミネーション。  「綺麗」  「そうだな」  「タカさんと、歩きたいな」  ポソっと呟くと、タカはこちらを見て、どろどろに甘い顔をした。そして道路脇の駐車場に車を停めた。  「タカさん?」  何も言わずに降りてしまった。きょとんとしていると、助手席のドアが開いて、タカが手を差し出した。  「行こう」  優しい顔にドキドキして、その手を取った。  「寒いっ!」  「雪降りそうだな」  手を繋いでゆっくり歩く。ドキドキして、ふわふわしてたまらない。  通り過ぎる人たちが、振り返ったり、ヒソヒソしているのが分かるが、2人はそのまま話しながらゆっくり歩いた。  「俺さ…あのスピリチュアル野郎がお前の前に現れてさ…正直、自信なかった。いつまでお前と一緒にいられるんだろう、って思ったら…こうやって、普通のこと、したいって思ったんだ」  優しい顔に見惚れる。周りのイルミネーションがさらにタカを彩っていた。  「タカさん、俺が動揺したから…不安にさせてごめんね。これは、俺の覚悟だよ」  そう言って繋いだ手のリングを撫でた。  「ありがとう。こんな高価なもの…。俺は優一がそばにいてくれるだけで幸せなのに」  「えへへ!タカさんを繋いでおきたいだけだよ!大奮発だけどね!だから、お仕事も頑張るんだー!」  元気よく言うと、タカも俺も頑張ろ…と呟いた。先ほどのお店の前を通ると、タカはぐいっと腕を引っ張った。  「タカさん!?俺、はずかしいよ!さっき来たばかりだから!」  「いいから!」  そして、タカは一通り店内を見回して、あのサファイアのショーケースの前に立った。  「あぁ、それでペアじゃないわけね」  「だって!俺にはまだ手が届かないもん」  拗ねてそっぽを向くと、タカは手を挙げて店員を呼んだ。  「へ?!へ!」  「これください。」  「サイズは如何ですか?」  「こいつに合うものを。ほら指出せ」  「えっと、えっと」  あたふたして左手を出すとゆっくりと通される。  (わ、ピッタリだ…) 「これで。」  ブラックのクレジットカードを見て、うっと優一は羨ましくなった。一括で支払われて更に差を感じた。  紙袋を受け取っても、タカはリングをまだ渡してはくれない。ソワソワしながら待っていると、夜景の綺麗なところにきた。  「わぁ…綺麗。街の明かりは毎日イルミネーションだ…」  「そうだな」  甘い声に驚いてタカを見ると、リングの入ったボックスを開けた。  「優一、一生、そばにいてください。」  「っ!」  「愛してる。お前以外、何もいらない」  愛の言葉と、リングが通される。優しい顔が近づいて、何度も何度もキスをした。 「優一、運命に抗ってでも、お前を幸せにするから。俺たちが運命だって、思わせるから」  だから、そばにいて。  (そんなの…俺のセリフだよ…)  幸せな気持ちで、大きな、安心する胸に埋まった。  ーーーー  「ユウ!!」  ビクッ!  (あ、この声は風磨…)  優一は緊張しながら、リングを撫でる。  「お、お疲れさま」  「よかった。あの時以来会えなくて不安だったよ。今歌番組の収録だったんだ…たくさんの人に褒めてもらえて最高の気分だよ。そんな時にユウにも会って…やっぱり運命の人だ」  抱きしめられそうになって、反射的に腕を叩いた。  (あ…あれ?できた)  風磨は唖然として優一を見ている。  (前みたいにドキドキもしない。何だろ?別に嫌悪もないし、恐怖もない、…でも何も感じない)  「嘘だ…嘘だよね!?なぁ!?ユウ!」  「やめてよ!はなして!!」  「やっと見つけたのに!運命を否定したのか!?」  「何言ってんの!?知らないよ!」  「ひどいよ!僕はずっと、ずっと探していたのに…」  力なく崩れ落ちた風磨にオロオロする。 「信じられない…っ、絶対!絶対手に入れるから!!」  「やめてよ!」  向かってくる風磨の左頬を打った。思わず手が出た自分に驚く。  「選ぶのは…俺なんでしょ?…俺は風磨を選ばない。」  「そんな!」  「俺には、運命の人がいるから…。それは、風磨じゃない。タカさんなの。」  「違うよ!僕だ!ユウは分かってない!あの人にいいように洗脳されているんだ」  「洗脳じゃない!俺の意思だ!!」  大声で言うと、泣きそうな顔の風磨に心が痛む。  (あぁ…また傷つけてしまった…。)  青木の顔が浮かんで目を閉じた。  でも、もう自分の好きな人を傷つけたくない。  「俺にはタカさんだけ。」  「後悔するよ」  「しないよ。俺が決めたことだもん。人に決められたことじゃなく、俺自身が選んだ。俺の責任でね。」  優一は、廊下の角に人の気配を感じた。ふふっと笑って、風磨の手を取った。  「風磨?運命よりも大事な人をしっかり見なよ。いつもそばにいてくれるのは誰?お前は、その人を幸せにしなきゃいけないよ」  「そんな人…」  「初対面の俺よりも、風磨を理解している人。考えてごらん。居心地の良い人。」  優一は風磨の左頬を撫でた。  「ぶってごめんね。痛かったよね。…バンドかっこいいよ、応援してる。」  優一は、廊下の角を見て笑って立ち上がった。  「行かなきゃ。風磨も。抱きしめてあげて。」  優一は角に走ると、泣崩れるタカに飛びついた。  「タカさん泣き虫〜」  「っ、ぅ、っ」  そして、その隣にはdiceのボーカル、匠。  「匠さん、抱きしめてあげて。」  匠は頷いて風磨のもとに走っていった。泣き腫らしたタカを見て笑い、楽屋に戻ろうとすると、抱き合う2人がいて安心した。  (お幸せに)  匠がペコリと頭を下げてきた。金髪でヤンチャそうだけど、あの歌を歌うほど繊細で、でもブレない心の持ち主だった。 

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