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第138話 運命の人②

(運命がなんだって?)  パニックになる優一を青木に預けて、スピリチュアル野郎と向き合う。余裕そうに微笑んで話す言葉が入ってこない。  「ユウは驚いたみたいですね…無理もない。運命の人に初めて会ったんだから戸惑うだろうし。…さて、彼氏さん、いつ別れますか?」  「は?」  「いつ、別れますか?もうしばらく一緒にいたいなら構いませんが、いつまでと、決めてください」  「何言ってんだ。何でお前にそんなこと」  「運命の人なんですって。」  クスクス笑う顔が本気で言っていることがわかりゾッとする。  (また変な奴に捕まって…)  「運命とか知らないけど、優一と別れる気はない。他あたれ」  「違うんですよねー。分かってないなぁ。運命って1つなんです。ユウは僕じゃなきゃ幸せになれないんです。」  「優一の幸せをお前が決めるな」  「それもそうですね。選ぶのはユウですから。」  お辞儀をして、非常階段から去っていったスピリチュアルなその人はタカに不安を与えるには十分だった。  (優一のあの顔…まさかだよな?)  必死に運命に抗うようにしがみついてきた優一。  立ち竦んでしばらくそのままでいたが、パチンと頬を叩く。 (俺が不安になったら、優一も不安になる。しっかりしねーと。)  気合いを入れ直して喫煙所に向かう。ドアを開けると、金髪の青年がしゃがみこんでいた。  「おい…?どうした、大丈夫か?」  体調が悪いのかと声をかけると、見上げた顔は涙に濡れていた。  「あ…すまない、邪魔したな」  気まずくなって目を逸らす。タバコを吸おうとするもライターが無く、舌打ちをする。  「良かったら、使ってください」  涙を拭いて立ち上がったその人は、下を向きながらライターを渡してくれた。  「あ、あぁ。ありがとう」  火を借りて煙を吸い込む。少し落ち着いてきたところで青年が話しかけてきた。  「ブルーウェーブのタカさん、ですよね?」  「…あぁ。」 「俺…バンドでボーカルやらしてもらってます。ずっとインディーズで…でももうすぐメジャーデビューなんです。」  「そうなのか、良かったな。デビューおめでとう」  「…でも…解散するかもしれないですけど」  寂しそうな声に目線を向けると、疲れたように笑っていた。  「夢だったのに、こんな重たくて…嫌になります。」  「重たい?」  「ドラマーが辞めるって言ったり、メンバーがギターのやつをいらないといったり、運命の人が見つかったから解散してもいいって言う奴もいたり…ハハッ…馬鹿らしい」  「運命…」  「笑えますよ?運命の人を探すために、俺らを集めたんだって…。俺の歌に惚れたって、言って…くれたのに…っ」  悲痛な叫びに思わず火を消して抱きしめた。  「そいつさ、切長の目のやつ?」  「…?…はい」  「お前さ、勘違いなら申し訳ないんだけど、あいつのこと好きなのか?」  賭けで聞くと、目を見開いた後、ぼろぼろと涙が溢れた。  「好きっ…っ、すき、すぎて、も、きつい」  「そっか…」  「RINGのやつには、勝てねぇ、俺、あんな可愛い奴には、なれねぇ」  「勝ってもらわなきゃ困る」  「え?」  「RINGのユウは俺のだ。お前名前は?」  「匠…。工藤匠」  「匠ね。状況はわかった。俺たちは利害関係が一致する。お互いの居場所を守るために協力しろ」  「…でも、風磨は運命だから…」  「お前までスピリチュアルかよ。こんなんだから振り回されんだよ!」  お互い連絡先を交換して、仕事へ向かった。タカはこれからの動きをシュミレーションしてはため息をついた。  (「決めるのはユウですから」)  その通りすぎて、怖い。  今更優一がいない生活になんか戻れないし、想像もつかない。  ーー  「ただいま」  「あっははは!タカさん、おかえり!みてみて!ちょうど面白いところなの!」  いつも通りの優一に安心してそっと抱きしめる。優一は嬉しそうに受け止めて、胸に収まる。  「優一」  「タカさん、ごめんなさい。不安にさせちゃったよね?」  「ん…」  「俺はタカさんのそばにいるよ?だって俺の運命の…」  「もうそれやめろ!!」  「っ!」  「頭おかしくなりそうだ…どいつもこいつも…。運命なんかあるなら、何故1番に出会わない?おかしいだろ!」  モヤモヤが爆発して収まらない。冷静になれと脳が司令を出すが、感情は溢れて止まらない。  「いつ別れるかと聞かれたぞ」  「…へ?」  「あいつと付き合う予定でもあるのか」  「そんな!ないよ!!」  「まぁ、選ぶのはお前だからな。」  「っ!」  「言っとくけど、俺にだって選ぶ権利はあるよな?」  「そうだよ…。ねぇ…?怖いこと言わないでよ!タカさん、離れちゃヤダよ?!」  泣きそうになる優一に胸が痛む。  (ほら、こんなにも離れたくないと願ってくれてる。これが運命じゃないなら、この感情は何だ)  「何か言ってよ!不安になるよ!俺にはタカさんだけだよ!ねぇ!!」  (必死になってくれる…これか運命じゃないなら…)  「ンッ…っ、?…っぅ、ん、」  突然優一が激しくキスをしてきた。体重をかけられて背中が壁にぶつかる。  「っは、っ、は、タカさん、ッ、」  必死になってキスをしながら、タカのベルトを外していく。下着ごと下ろされると、反応していないそこを優一の口内の温かさが包む。  「ハッ…っ、優一、」  「んぅ、むっ、んぅ、っ、ん、ぢゅ、っ」  激しく音を立てながらの口淫にガチガチに固くなる。久しぶりにこんな積極的な愛撫に頭がぼんやりする。  「はっ、気持ちい?タカさん」  「ん、っ、ん、…いいよ…」  「はぁ…タカさん、っん、エッチな顔」  「っ、はっ、っ、お前も、だろ」  溢れた唾液を指で拭ってやると、嬉しそうに笑う。 「タカさん見てたらシたくなる。」  「っはぁ、っ、優一っ、っ、」  「タカさんが欲しくてたまらない」 今度は手で激しく扱かれ、優一の髪の毛をギュッと握る。  「タカさんは俺から離れちゃダメ」  「っく…ぅ、っっ!!っはぁっっ!」  ドクドクと吐き出すと、わざとなのか顔にかかった優一は、ペロリと舐めとって服を脱ぎ始める。真っ白ですべすべの肌に釘付けになる。フローリングに座り込んで、足を開いた。  「ゆ、優一?」  「タカさん、見ただけで…ほら見てぇ?」  露が溢れ、その露を救って奥の穴に塗りつける。あまりの色気にタカは目を見張った。  「タカさんのは、大きいから…まだ、だね」 2本入れて、はっはっ、と呼吸する優一に、痛いほど反応している。早くあの狭い中に入って、優一と快感に浸りたい。運命の人とかどうでもよくなって優一に手を伸ばす。  「んっ、やっと、きてくれたぁ」  「優一っ、優一」  「早く、触って。俺を…抱いて」  「優一!」  恥ずかしそうに誘う顔に理性がとんだ。 「タカさんっ!タカさんっ、っぁああ!」  こんなにも名前を呼ばれて、全身で求められる。形がピッタリになった2人、今更かけることがないよう、さらに奥を進める。  「ッッ!?っぁは、っは、」  「息、して、優一、」  「ーーッ」  「優一、まだ、とぶな…っ」  はくはくと必死に呼吸する優一の口にキスをして、最奥を付く。優一はガクガクと震えて焦点の合わない目が心配になる。  「優一っ、優一っ」  腰を振る度に、優一の熱がピュッピュッと飛び出し、顔は真っ赤になっていく。  (限界かな…)  ここまで快感に落ちているのを見たことがない。  (ほら、やっぱり俺じゃないと)  少しの優越感に安心して、手を握る。  「タカっ、さん、っ、俺、を、捨てないでっ」  「っ!!」  涙を流しながら、必死に縋りつく優一に、胸が抉られそうだった。  (こっちの台詞だよ!お前に選んでもらえるか…未だに不安なんだよ!!)  「俺、っ、タカさん、と、いたいよぉ」  「分かってる」  「っぁあああー!!!」  突然体を震わせ、ガクンと意識を失った。急な締め付けにドクドクと吐き出す。  後処理をするときでさえも愛しくて、意識がないのに可愛いくてたまらない。  「優一、やっぱり、はなしてやれないよ。何があっても」  スピリチュアル野郎の顔が浮かんで、苦笑いする。突然現れたその人に惑わされる自分たちが滑稽だった。  (あいつは動いてくる。その前に動く)  新曲はブルーウェーブにと思っていたが、やめた。匠に音源を送り、明日録るとだけメールを送った。  「もしもし、翔太さん?うん、あの曲なんだけど…」  ーーーー  「まだ無名の新人に…恐れ多いです!」  「そんなことないです。彼は立派なボーカリストです。」  diceというバンドのボーカル、匠とそのマネージャーを事務所に呼んで打ち合わせをした。メールを送った後にバンドを調べ、いい具合に事が運びそうだった。  (こいつらが解散?もったいねぇ)  スピリチュアル野郎がリーダーのこのdiceというバンド。デビューを決定付けたのは間違いなくこのボーカルだ。  (ハスキーボイスに大人っぽさと必死さがある。これはかなりの武器だ)  全身を使って歌う姿は見るものを釘付けにする。だからこそ、聞かせたいと思った。  「母がジャズバーを経営しています。そこで俺とこの曲でゲリラライブしましょう。」  「っ!」  「その様子を1時間以内に配信。どうですか?」  「やりてぇ!俺!やってみてぇ!!」  目をキラキラさせる匠は音楽が好きなんだとすぐに分かる。真っ直ぐなこの人はあのスピリチュアル野郎にいいように使われていたのだろうか。  「これで…また、風磨が見てくれるならっ」  (相当好きなんだろうな)  苦笑いして頭を撫でると、匠は顔を真っ赤にして触んなっ!と怒った。  ーー  「ヤダ!なんか母さんも緊張しちゃう!」  「何でだよ。映らないぞ」  「えぇ!?美容院に行ってきたのに…」  「ははっ!綺麗だよ」  「あらヤダ!」  麗子が嬉しそうに笑って、匠をカウンターに案内する。  「匠さんね、よろしくね」  「よろしくお願いします!」 セッティングが終わって、タカがピアノの前に座る。匠がスタンドマイクに手をかけた。  昨日書き上げた歌詞は、好きな人と絶対にそばにいるという歌。感情が乗る匠は予想以上にいいできになった。  大きな拍手が聞こえ、周りを見ると、常連さん達が盛り上がっていた。麗子は涙を拭い、いつまでも拍手をしてくれた。  「いいか、匠。あと1時間でお前は一気に世に認知される。お前は認められる。匠が優位に立てば少しは動揺するはずだ。」  「分かった!」  覚悟が見えて、ハイタッチをした。  動画を配信してすぐに爆発的に広がった。タカのケータイにも多くの連絡があった。  「あのボーカリストは誰だ」  ネットで探され、そのタイミングでメジャーデビューのニュースが出た。  ピリリリリ ピリリリリ  「あ…タカさん、風磨から…」  「うん、出てみな」  緊張したようすの匠に頷いて様子を見る。 「もしもし、風磨…」  『何勝手なことしてんの?』  「見てくれた?」  『後の…ピアノの奴…見覚えがある』  「お前の、運命の人の、恋人だよ」  『ふっざけんな!!!匠が僕以外の演奏で歌っていいなんて許可してない!!しかも、こいつ!!僕の邪魔ばかり!運命の人の次は匠も…?ふざけやがって!!』  スピーカーにしていた匠は、嬉しそうに顔を真っ赤にした。タカも狙い通りにニヤリと笑った。  『匠、浮気は許さない。今すぐ帰ってこい』  「分かった」  電話を切って、匠は嬉しそうにタカを見た。タカは行ってこい、と笑って頷いた。  (こんな可愛いやつを差し置いて、よそ見しやがった罰だ。)  ピリリリリ ピリリリリ  「優一、どうした?」  『あの、あの人!風磨の…』  「あぁ。diceのボーカルだってな?」  『あ、知ってたの…?』  「そうだよ。だからあいつを選んだ。歌詞も聞いた?俺の気持ちだよ、そして匠のもな」 『…っ、やだ。』 「何が?」  『2人が…付き合ってるように見えた』 思わぬ嫉妬にタカも固まる。  『やだよ、あの人の歌すごかった…。タカさんも寄り添ってたし…お似合いに見えて…すごい、苦しかった』  「優一…」  『早く帰ってきて。会いたい』 「すぐ帰るよ。」  電話を切って、あまりの嬉しさに幸せを噛み締める。作戦はいい方向に進んだはずだ。お互いの居場所を守るためだけに、世の中を巻き込んだ。  (さぁ、どこからでもかかってこい。優一は、俺のものだ) 

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