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第137話 運命の人①

「レイさんご機嫌だね!」  「なーに言ってんだ!俺はいつだってご機嫌さ!はははっ!」  青木と誠はきょとんと目を合わせ、ふふっと笑った。助手席のレイは鼻歌を歌いながら窓の外を見つめる。その隣にはいつも通りのマネージャー。  「お誕生日2人で過ごしたからかなぁ? 「そうかも!すっごいサプライズとか?」  2人でこそこそ話していると、レイが後ろを振り返る。  「「っ!!」」  (何…この綺麗な笑顔!)  (初めて見た…)  「すっっごいサプライズだった」  その台詞は伊藤に目線がいき、伊藤は何でもないように反応しない。ハンドルを握る手にはホワイトゴールドのリングと、エメラルドグリーンの宝石。  「キャー!!」  「うわぁ!青木!何!」  「レイさん指輪!?」  「せーいかいっ!」  ニカッと笑ってまた鼻歌を歌う。  伊藤はどこまでも普通で、温度差を感じて青木は伊藤を見つめる。  「何だよ青木」  「んー?落ち着いてるから」  「…はしゃぐことじゃないさ」  「へー?で、本当は?」  「気合いが入るよ。仕事にも。」  ニッと笑った伊藤の顔も初めて見る顔でドキッとした。  「伊藤さんカッコいい…」  「あっはは!レイさんメロメロじゃーん」  可愛いー、と誠がケタケタ笑った。 ーー 「みんなおはよう!」  楽屋で3人で話していると、優一が元気いっぱいに入ってきた。すぐに青木の隣に座り、大河との曲の演出を話し始め、青木は慌ててメモを取った。 誠が倒れた日から分業になり、ユニットコーナーは青木の担当になったのだ。イメージしやすい話し方に、隣の誠やレイも優しく頷きながら聞いていた。  「あー早く収録終わって大河さんと練習したいなぁ…最近時間合わなくって…」  「大河さんも同じこと言ってたよ」  誠が言うと、優一はげんなりして早く会いたいとつぶやいていた。  突然立ち上がり、フラッと何処かへ行った優一に驚いて、誠とレイがきょとんとして固まっている間に青木が動いた。 「ユウ!どこ行くの?」  「え?…なんだか歩きたくなって…散歩してくる」  「散歩?珍しいね!一緒に行っていい?」  「うん!なんか久しぶりだねっ!」  嬉しそうに笑う優一に、やっぱり胸がチクンと痛む。可愛いものは可愛い、仕方ない。  ドカン!!ドサッ  「てめぇ!ふざけてんのかこらぁ!!」  「すみません!すみません!!」  非常階段から聞こえた大きな音と怒鳴り声に、青木はヒィッと声を上げた。優一は無表情になり、スタスタとそこへ向かう。  「ちょ!ちょっと!ユウ!首突っ込まない方がいいよ!」  「たぶん…大人数だよ。そんなのダメ」  「ユウ!ダメだって!戻ろう?」  優一は真顔のまま青木を振り切り、非常階段の扉を開けた。  「っ!」  優一の言う通り、大人数の男たちが1人の男を殴ったり蹴ったりしていた。鼻血を出して倒れる人はもう抵抗もしていなかった。  「青木、誰か呼んできて。怪我してる」  「でもっ…ユウは」  「俺はいいから。」  ようやく気づいたのか、大人数の視線がこちらに向けられる。  「なんだこら!見せもんじゃねーぞ!」  「ヒィッ!すみません!ユウ!」  「ここ、テレビ局だけど?分かってる?何してんの」  「あぁ!?なんだこのチビ!!」  「あー…こいつアレだよ、RINGってゆーアイドル」  「アイドル!?クソださい奴らだな!」  「は?お前らがダサくね?大人数じゃなきゃこの人に勝てないの?ダッサ」  優一が煽るのをオロオロするしかない。大人数の男たちが殺気立つ。  「てめぇ売れてるからって調子乗んなよ」  「やば。1番ダサい台詞。売れてないからあなた達が誰か分かりません、申し訳ないです」  止まらない煽りに、大人数が動く。その時、奥にいた人が見えた瞬間、優一が目を見開いて止まった。  「あ?なんだこいつ…風磨?知り合いか?」  「ユウ?どうしたの?」  優一も、その風磨と呼ばれた人も動かない。しばらく見つめ合ったあと、風磨が口を開いた。 「僕の、運命の人…」  「はぁ!?風磨、何言ってんだ?こいつ男だぞ」    切長の目で優しく微笑むと、優一に近づいてくる。  (ユウ?どうしたの?)  背の高いその人は、優しい雰囲気が誠に似ていた。そっと優一を抱きしめて、その場にいた全員が息をのむ。  「待たせてごめん。やっと見つけた」  「風磨!!」  怒鳴る仲間の声にも反応せず、身体をはなして優一に目線を合わせる。  「ユウ…運命の人はユウだった。」  「ち…がう、よ。俺は…」  「ユウ、分かるでしょ?」  「違う…違うよ!!放して!」  「ユウ」  「うっ…。何だよ」  抵抗しても、風磨に呼ばれただけで顔を真っ赤にして下を向く。  「僕はこのメンバーでバンドをしてるんだ。運命の人に…ユウに会うために。」  「…そんなの、知らない」  「坂井風磨。ベースやってるよ。」  「…興味ない」  「ウソ。ユウだって気付いてるでしょ?」  優一の顎をクイッとあげると、青木はブチンと切れる音がした。  「ユウに触るな!!」  「…何?君。」  「ユウのメンバーだよ!」  「ふうん?…で?ユウの何?」  「だから…メンバーだってば…」  今度は優一が小さく答える。浮気を問われて弁明しているような言い方に青木はゾッとした。  「そ?ユウが言うなら間違いないね。この人は、違うみたいだけど」  見透かしたような目がムカついて、大人しくなった優一にも苛立った。そして、他にも苛立った人が… 「ぐぁっ!!」  「匠!もう止めろ!」  「うるっせぇんだよ!どいつもこいつも!」  「匠…。邪魔しないで。」  「っ!」  「何その目?もう会えたから、僕はいつ解散したって構わないんだよ?」  風磨の言葉に全員が固まる。匠は勝手にしろっと叫び、倒れた人をもう一度踏みつけて非常階段から降りていった。  「風磨、追わないのかよ」  「もう匠に興味はない」  誠に似てると思ったが全く違っていた。冷酷そのもの。獲物を前にしたハンターだった。  他のメンバーが追い、ボコられていた人でさえも後を追った。  「優一?」  「「っ!」」  聴き慣れた声に、優一が勢いよく振り返り、安心した顔でタカに飛びついた。  「おっ…と。どした?」  「タカさん…」  ぎゅーっと強くしがみつく優一に苦笑いすると、タカは優しく優一を見ていた目とは違い氷のような目つきに変わった。その視線の先には自称「運命の人」。  (運命の人と、今の彼氏…なんて修羅場)  青木は消えたい気持ちを抑えて静かに立ちすくむ。  「こんにちは。ユウの彼氏さんかな?」  「……。」  「どうも、ユウの運命の人、風磨です。」  「は?」  「今までユウを守ってくれてありがとうございました!でももう大丈夫です!お世話になりました。」  「こいつ…何言ってんだ…?」  タカは不思議そうに風磨を見ている。胸の中の優一は力一杯にタカのシャツを握る。  「ユウ、おいで。お前の居場所はここだよ」  「ふざけるな。優一は渡さない」  「ははっ。すみません。あなたに選ぶ権利はなくて…。ユウが決めることです。僕らは運命で繋がってるんで、誰が何を言っても、繋がる運命なんです。」  「スピリチュアルが好きなのか?脳内お花畑でめでたいな。お前みたいなファンはたくさんいる。」  「ファンなんかじゃないですよ。悔しいのは分かりますが…。ユウに聞いてくださいよ。本能が僕を求めているんです。」  タカが優一を見ると、ぎゅっと目を閉じている。  「僕を見たら触りたいでしょ?さっきのハグの安心感と今、どっちが心地いい?僕が触るだけでゾクゾクしたでしょ?これが…」  「うるさいな!!!」  優一が大声で怒鳴った。  タカも青木も、そして風磨も驚いた。  「お前!誰なんだよ!!さっきから!」  「え?自己紹介したよね?」  「知らないんだよ!お前みたいな奴!俺のタカさんに向かって何言ってんだよ!!俺はタカさん以外興味ない!!気持ち悪いこと言うな!!」  「なら、証明してよ。僕が運命の人じゃないってさ。」  「近づくな!俺に触るな!!!」  「怖いんでしょ?僕を求めることが。そのタカさんよりも欲しくなるのが。」  「黙れ!黙れ!!黙れ!!!」  パニックになる優一は喚きながらタカにしがみつく。青木はタカにいきましょう、と言うと優一を預けられて抱き抱えた。  「優一は楽屋に戻せ。マコちゃん隣に置いとけ。」  目は風磨を見ながらの指示に返事をして急いで優一を楽屋に入れた。  ガチャ  「あ、おかえり〜」  「ぅっぅ…」  「ユウ?」  「優くん?」  誠とレイが異変に気付き立ち上がった瞬間。  「ぅっぁあああーーーッ!!」  ドカン!パリーン  「ユウ!落ち着け!!」  レイが暴れる優一を抑え込み、誠は鍵を閉めた。誠が何度も何度も名前を呼ぶと、少しずつ落ち着いてソファーに横になった。  青木とレイが割れたグラスや倒れたものを直して、誠が優一を膝枕して頭を撫でた。  「優くん…?どうしたの」  「…怖かったぁ…」  「え?」  「運命の人…かもしれない…」  「はぁ!?」  その言葉を聞いて青木は拾った破片を床に落として優一の胸ぐらを掴んで引き上げた。  「青木!!」  「ユウ!!何言ってんだよ!目ぇ覚ませ!」  「青木、そんな言い方…」  「分かるよ…青木の言いたいこと…でも、でも、俺、初めて気づいたんだもん…」  「何、何なの?」  「抱きしめられた時、この人だって…」  パシン!!  「青木!!」  「ユウのバカ!すぐ洗脳されて!!じゃあタカさんは何なの!?ずっと守ってくれた人なのに、あんな初対面の人に靡くなんて最低!!!」  「っ!!分かってる…分かってるよ…っ、青木、ごめん、ありがとうっ、ごめん」  頬を真っ赤にしたまま、必死に謝る優一に力が抜けた。  ーー  「運命の人?」  大河も揃って収録を終え、先程の話題になった。優一は疲れて眠っている。  「いきなり現れた風磨って人。ユウ見て運命だなんだって…。ユウもさ、固まっちゃって…」  「そんなのあるのかな…」  「盲目っぽかったから…これからユウに付き纏うかも。」  「心配だな。ユウも絆されそうになるくらいイケメンなのか?」  「いや?とくに何も思わなかったけど…バンドではかなりの権力者っぽかった。」  大河もレイもうーん、と唸った。誠は苦笑いして優一の頭を撫でた。  「初めて気付いたってのが…怖いよね。」  「どういうこと?」  「優くんは鈍感だから。人の好意に気付かない。なのに、今回は見ただけでお互いが惹かれただなんて…運命かもって思っちゃう。俺だって、大河さん見てこの人だって思ったし…あながち間違いじゃないかも。」  (タカさんが心配だ…このままじゃユウは流される。)  でも、何も浮かばなくて眉間に皺がよる。  「…よく分からないけど…俺たちが何を言ったとしても、そいつが言ったように、決めるのはユウだ。ユウの選択を見守ろう」  レイの言葉に全員が頷いて、大きなため息を吐いた。  (やっと落ち着いたかなって思ったのに)  男にモテすぎるこの人に苦笑いをした。  ーーーー  「匠、機嫌悪いね」  「うるせぇ!誰のせいだと!」  「僕のせい?」  「っ!」  「嫉妬したの?」  「……っ、するだろ…っ、普通」  今にも泣きそうな匠が可愛くて傷んだ金髪の頭を撫でる。メンバーが匠の家に行けというので行くと、かなり機嫌が悪く、その理由がたまらない。 「可愛い」  「触んな…っ」  「匠は運命の人じゃないよって、最初に言ったじゃないか。何で今更傷付くの?」  嫌がる匠にキスしながら、服の中に手を入れる。ついに泣き出した匠にゾクゾクする。  「気持ちが…っ、追いつかないんだよ…!なんで、運命じゃねーのに、俺をそんな目で見るんだよ」  「そりゃ可愛いもん」  「期待…するだろ…っ、っ」  「あぁ…だからここも、こんなにしてるの?」  「アァ!!…ッ、やめろ、よ、今日は、シたくねぇ…」  「僕でしか満足できないのに、そんなこと言っていいの?最後かもよ?」  「ッ!!」  酷くショックを受けた顔。  でも、これは仕方のないこと。  今はただ、必死に手を伸ばす可愛いこの人の手を握る。  その手はいつか放すから、それまでは。  「はっ、ンッ、匠ッ、匠」  「もっと、俺、の、名前、呼んでっ」  「匠…、お前が運命だったら良かったね」  「っぁ、っあぁ!!風磨!風磨ァ!」  「お前も同じくらい可愛いんだよ?でもね、全然違う。」  「やめっ、やめろょぉ、今、ぐらい、俺を…見てよっ」  「最高の表現力だよ匠。さすがボーカリストだねっ、今のは僕に響いたよ」  「ひぃっ!?ーーッ!!ッァアァア!!」  細い腰を掴んで、奥を穿つとたまらない快感が押し寄せる。運命の人と錯覚するほど匠とは相性がいい。理性だって何度も飛びそうになったけど、やっぱり運命の人ではない。  (限りなく近かったのにね)  もう見つけてしまった。  あの衝撃は今までないものだった。あの子を手に入れないと、と失神した匠を抱きながらニヤリと笑った。 

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