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ポッキーの日SS『ポッキーゲームとは』
「なぁ壱成、ポッキーゲームって知ってる?」
「え? あー、知ってる知ってる。端っこと端っこ咥えて、度胸試しするやつだろ?」
空が寝静まった夜、彩人は壱成とともにソファで寛いでいた。
今日は平日だが彩人は休みで、空の送迎から家事に至るまで全てを終え、帰宅してきた壱成を出迎えていたところである。
シャワーを浴びてさっぱりした後、壱成は彩人の作った夕飯を食べる。大して芸のない夕飯を「へぇ、美味いじゃん」と褒めてくれる壱成を眺めながら軽く酒を飲むのが、彩人の至福のひと時だった。
ちなみに、今日の酒のつまみはポッキーだ。ハロウィンパーティーで店からもらったものである。
「度胸試し……そういうのだっけ? なんかラブラブカップルっぽいイベントじゃなかったっけ?」
「そーだっけ? 迫りくる相手の圧に負けて、先に口を離したほうが負けとかそういうんじゃなかった?」
「漢 らしすぎじゃん?」
ポッキーゲームに対する壱成の姿勢があまりにも体育会系のノリすぎて、彩人はついつい笑ってしまった。
「ま、そういうゲームにかこつけてチューしよーぜ、みたいな遊びだろ? うちの店でもイベントに入れちゃおうかって話出ててさー」
「……えっ!? ホストクラブでポッキーゲーム? ホスト同士でガチンコ勝負するってこと?」
「ホスト同士?」
ホスト同士でガチンコ勝負とは、つまり彩人が、忍やマッサたちとポッキーゲームを行うというこだろうか――と、彩人は現場を想像してみた。……忍にもマッサにも勝てる気はしないし、年下ホストたちには勝てたとしても、彼らと数ミリの距離でポッキーを奪い合うという絵面には若干引くものがある。
おふざけ好きのイケオジホスト葛木などは、目を閉じて彩人が迫って来るのを待っていそうなイメージだし……彩人はやや身震いした。
「いやいや何でだよ。お客さんだよ、お客とポッキーゲームすんの」
「………………はぁ!? 何それ、女の人とそんなゲームするとか……き、キスしちゃったらどーすんだよ!」
「まぁ、そういう趣旨のゲームではあるんだけど」
「ダメダメ! そんなのダメに決まってんじゃん!」
くわっとなって怒っている壱成もまた可愛らしく、彩人は壱成の怒り顔をツマミに缶チューハイを一口飲む。そして壱成を宥めるようにこう言った。
「だいじょぶだって。忍さんが即却下してたから」
「あ……そ、そう。ふーん……ならいいんだけど。てか意外。忍さん、そういうのサラッとやって、キスくらいならいくらでもって感じでサービスしてそうなのに」
「まぁ自分はともかく、マッサが客とチューしたりすんの嫌なんだろーな」
「ふうん。……え、何で?」
「だって、マッサと忍さん付き合ってっから」
「……ふーん。………………はっ!? 何それどういうこと!?」
ああ、そういえば。壱成にはまだ伝えていなかった気がするな……と思いながら、彩人はまたもう一口酒を飲んだ。
「言ってなかったっけ? まぁ俺も聞いたの最近だけどさ。あの二人、付き合うことになったんだって」
「そっ……そーなの!? マジかよ! ……いや、かなりお似合いだけど」
「かといって、二人ともそんなラブラブオーラ出さねーんだけどな。いつも通り、マッサは忍さんの犬って感じだし」
「犬」
「俺も初めに聞いたときはびっくりしたけどな。まぁけど、何となくしっくりくるっていうか、落ち着いてる感じ? 大人の付き合い〜って感じで、安定感あるんだよね」
「なるほど……」
彩人もつい最近聞いたばかりのことなのだ。
店が終わった後に三人で焼肉を食べに行き、その時にマッサから報告を受けたのである。報告といっても、かっちりとした改まった調子ではない。
忍が『胃もたれしそうだな……胃薬あったっけ?』とマッサに問い、マッサが『確かまだあったと思うけど……。ほな焼肉やなくて寿司にしたらよかったんちゃいます?』などと妙に所帯じみた会話をしているものだから、彩人が『何でマッサが忍さんの胃薬事情なんて知ってんだよ』と突っ込んだのだ。
そこで二人が一緒に暮らしていることを知った上に、身体の関係まで結んでいるということに仰天した彩人である。どっちがどっちを抱いているのかというところまでは、不躾かと思い突っ込めなかったのだが……。
「へぇ〜……あの二人が。へぇ……」
「あ、壱成、やらしー想像してんだろ」
「し、してねーよ!」
「うそ♡ 顔赤いよ?」
「してねーっての。ごちそうさま!」
頬を赤らめたまま壱成は茶碗を纏め、シンクで皿洗いを始めた。彩人も一缶を飲み干してしまうと席を立ち、壱成の手伝いを始めた。やや火照った肌に、水がひんやりと気持ちがいい。
「ま、そんなこんなで、ポッキーゲームは却下になったわけだよ」
「ああ……そうだった。ポッキーゲームの話してたんだったな……」
「なぁ壱成、俺とポッキーゲームしよーぜ。ほら、今日まさにポッキーの日だし」
「はぁ? なんでそんなこと……」
「あっ、負けると悔しいからやりたくねーんだろ。壱成、俺が見つめてるとわりとすぐ目ぇ逸らすもんな」
「ぐっ……! そういうわけじゃねーし。彩人の目……まぶしーからあんま長く見てらんねーんだよ」
「眩しい? 俺の目、ビームでも出てんの?」
「ビームってなんだよ。……き、綺麗ってことだよ」
「へっ」
突如としてデレた壱成に、彩人の心にストンと矢が刺さる。泡を洗い流す作業をやめて壱成を見下ろすと、壱成は耳まで真っ赤に染め上げながら、スポンジでコップを洗っていた。
「な、何だよもう、いきなり綺麗とか。へへっ……ふへへっ」
「……うう。恥ずかしい……」
「壱成、こっち向いて」
「っ……や、やだよ。洗いもんしてんだよ」
「ほら、これで終わりだろ?」
壱成の手からコップを受け取り、綺麗に泡を流して置いておく。そして彩人は、キッチンのカウンターに置いていたポッキーの箱から指で一本だけ摘み上げると、パクリと自分の口に咥えた。
「ほら、そっち咥えて」
「っ……やんの?」
「ん♡」
彩人は、壱成の腰を抱き寄せながらポッキーを近づける。すると壱成はちょっと気恥ずかしげにちらりと彩人を見上げた後、おずおずといった調子で口を開き、ポッキーのチョコレート部分を控えめに咥えた。
それを合図のように、彩人はサクサクとポッキーを食べ進めた。すると、壱成も負けじとポッキーを食べ始めたのだが、ちらりと彩人と目が合うや、ぽっと頬を染めてまた目を伏せてしまう。
すっかり赤面しているし、目は潤んでいてすごく色っぽい。俄然やる気が湧いてきてしまった彩人が前のめりでポッキーに喰らい付いていくものだから、壱成は慌てたように先を急ごうとした。
だが、それ以上は進めない。彩人は勝利宣言をするように壱成の唇にキスをして、こくんとポッキーを飲み干した。
「俺の勝ち」
「ふ、フライングだぞ!」
「そーだっけ? ……ほら、チョコついてる」
「んっ……」
下唇にくっついたチョコレートを舌でゆっくりと舐め取ったあと、彩人は壱成の唇に食らいつく。さらに強く腰を寄せ強く抱きしめながら、甘いチョコレートの味に染まった壱成の舌を味わうのだ。
「んっ……ぁ、あやとっ……」
「美味しい、壱成。こっち見て?」
「は……っ……」
壱成の頬に手を添えて、強引に自分の方を向かせてみる。壱成はとろんと潤んだ瞳でじっと彩人を見上げていたが、瞬きするごとに視線が揺れ、目を逸らそうとするのだ。
「壱成、ちゃんと見て。俺のこと」
「う、うう……は、はずかしーんだよっ……こんな顔、見られんの」
「こんな顔って?」
ちゅ、ちゅっと軽いキスを繰り返しながら、彩人は壱成の反応を楽しんだ。ぐっと押し当てた下半身には、はっきりと壱成の昂りを感じ取ることができる。いつぞやは勃起不全に悩んでいた壱成だが、彩人のキスひとつでこんなにも素直に快感を訴えてくれることが愛おしくて、たまらなかった。
「ァっ……ばか、擦んなって……」
「だって、もうガチガチじゃん? ……ほしい? こっちにも」
「んっ……ン」
する……と腰を抱いていた手で双丘を撫で、その谷間に指を這わせた。すると壱成はビクッと腰を震わせながら熱いため息を漏らし、トロンとした眼差しで彩人を見上げた。性欲を刺激し、羞恥心を忘れさせるように太ももを屹立に擦り寄せ、まぶたや頬、鼻先にキスをしながら、彩人は壱成を誘った。
「壱成」
「ァ……はぁ……っ。ん、したい……」
「ん? 何?」
「ば、ばかっ!! 聞こえてるくせにっ……!」
「ははっ、怒んなって。空が起きちゃうだろ?」
「あっ」
壱成がハッとしている隙をついて、彩人はするりと壱成のスウェットの中に手を差し入れた。柔らかく引き締まった尻たぶを揉みしだきながら、壱成の耳元で甘く囁く。
「……二階、いこ? 俺もしたいな」
「ふぅっ……みみもとで、しゃべんなって……」
「へへ、耳弱いもんな、壱成」
「ひっ……ン」
小さな耳孔を舌先でくすぐってみると、壱成は全身をビクンと震わせてか細い悲鳴を上げた。そして、そんな声をあげてしまった自分を恥じらうように真っ赤になりながら、「くそ……っ、どうしてお前は声までイケメンなんだ……」と涙目で震えながら怒っている。
表情がくるくると変わる壱成が可愛いやら愛おしいやらでたまらない。彩人はひょいと壱成を縦抱きにすると、そのまま二階へ連れていくことにした。
「よし、今夜はずーっと耳元で実況中継してやんよ。エッチの最中、壱成がどんなふうにエロいかってこと」
「はぁ!? なんだよそれ、やめろばかっ……! てか抱っこすんな!」
「暴れんなって。すぐベッド連れてってやっからな♡」
そしてその夜も、彩人は甘く甘く壱成を愛し尽くすのであった。
『ポッキーの日SS』 おわり♡
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