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第一話 齋明 匠 /1

 (たくみ)の通う専門学校は高層ビルの十三階で、全体からすれば低い位置であるが下界を見渡すには十分の高さだった。休憩室の窓から街を見下ろしコーヒーで一服するのが匠の日課だ。  パソコンのモニタに常に向かい合う毎日の講議は、つまらなくはないのだが眠気を誘う。今日はアイスだが、そろそろホットにしようかという季節。街路樹の葉はもうすぐ落ちる。 「今日の講議終わったら飲み行かない?」  課題提出が終わると必ずと言っていい程誰かがそう提案する。休憩していた同じ講座の連中が参加者を募り出す。コンパだ。匠は興味を示さずに、色を抜いた長い前髪で顔を隠す。 「齋明(さいみょう)も来いよな」  唐突に幹事役がそう振ってくると、 「わかった」  と短く返す。いつもそうだ。興味はないが、誘いは断らない。面倒だから。  飲み会が終わると男は同じ方向へ帰る女を送らなければならないらしい。匠は予備校から二駅先の小さなアパートに住んでいた。アパートが近所の女が一人いて、匠は飲み会後、いつも彼女と一緒だった。  彼女をアパートまで送り、自分のアパートまで引き返す。 「いつもありがとう、齋明君」  女は張りのある口調で礼を言う。

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