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第一章・1
悪いけど明日の予定はキャンセルしたい、との一条 聡士(いちじょう そうし)の言葉に、佐倉 藍(さくら あい)は少なからず、いや大いにがっかりした。
だがそれは決して表に出さず、ただ軽い口調で、あらら、とだけ口にした。
わざわざ男子寮の藍の部屋にまでやって来て、告げてくれただけでも上出来だ。
それだけ悪いと思ってくれているだけでも、御の字だ。
「新しい服をさ、ちょっと見に行くことになってさ」
「じゃあ仕方ないね。となると、誰か新しいイイ人と約束を?」
聡士は女性とデートする時は、必ずその相手に合わせて服を選ぶ。
女の子の容姿、性格に合ったコーディネイトでキメてくる。
顔を合わせる前から、すでに駆け引きは始まっているのだ。
服を新しく選ぶという事は、これまでに会ったことのない相手ができたという事。
勝負服を選ぶ時、聡士は必ずひとりで出かける。
藍と一緒に選ぶ、という選択肢はないだろう。
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