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第一章・2

「前に話したことあったろ、女子大の学生。明後日、一緒にデート♪」 「へぇ、ついに陥としたってわけ?」  何度口説いても色よい返事のない、身持ちの硬いお嬢様だったはずだ。  今までにないタイプ、と聡士が俄然張り切っていた覚えがある。 「じゃあ、チケットあげる。ふたりで観てくれば?」 「え? いいのか」  ちょっと待ってて、と部屋の奥に進み、書棚のブックエンドに挟んでおいた封筒に手を伸ばして、小さくため息をついた。  どうしてこう、いつも思ってもいない事を、本心から望んではいない事をしてしまうのか。  聡士とふたりで、明日観に行くはずだった映画だ。  その隣に別の人間が座るなんて、普通なら考えたくもないはずだ。  映画のチケットを手に戻ると、聡士が財布を手にしていた。 「お金はいいよ。大した額じゃないんだし」 「でも」 「いつか、その分お茶でも御馳走して」  聡士はもうそれ以上は動かず、すまないな、と財布をポケットにねじこんだ。

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