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第一章・3

「健闘を祈る!」  冗談めかして敬礼すると、まかせとけ、と返ってきた。  ああ、僕が祈らずとも、聡士なら万事巧くやってのけるだろう。  階段を降りて行った聡士の背中を、見送った。  その姿が見えなくなるまで、見送った。  見えなくなって、ようやくのろのろと動いた。  暦の上に、小さく薄く鉛筆で書き込んでいた印。  消しゴムで、ていねいに消した。  思えば、こんなにささやかに、しかも消しゴムで簡単に消せるように書き込んだところから、負け戦は決まっていたのだ。  聡士と約束したことは、いつも鉛筆で小さく薄く書いていた。  いつでもすぐに消せるように。  キャンセルになる事の多い約束は、あってないようなものだった。

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