3 / 49
第一章・3
「健闘を祈る!」
冗談めかして敬礼すると、まかせとけ、と返ってきた。
ああ、僕が祈らずとも、聡士なら万事巧くやってのけるだろう。
階段を降りて行った聡士の背中を、見送った。
その姿が見えなくなるまで、見送った。
見えなくなって、ようやくのろのろと動いた。
暦の上に、小さく薄く鉛筆で書き込んでいた印。
消しゴムで、ていねいに消した。
思えば、こんなにささやかに、しかも消しゴムで簡単に消せるように書き込んだところから、負け戦は決まっていたのだ。
聡士と約束したことは、いつも鉛筆で小さく薄く書いていた。
いつでもすぐに消せるように。
キャンセルになる事の多い約束は、あってないようなものだった。
ともだちにシェアしよう!