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第三章・7
慣れ親しんだはずの部屋の、何でもない場所に足をとられて藍は床に倒れた。
もうそのまま横になっていたかったが、這うようにして進んだ。
明かりのない部屋の中、窓から射す月の光だけを頼りに這いずっていった。
お気に入りだった服。
ファッションにうるさい聡士が、それはまあまあ似合う、と珍しく褒めてくれた服だった。
でも、もう着られない。
この服を見るたび、袖を通そうとするたび、今夜の忌まわしい出来事の記憶がきっと甦る。
藍は、脱いだ服を次々とゴミ袋に投げ込んだ。
そしてゆっくり立ち上がると、浴室へと足を向けた。
この体も、清めなければならない。
そう思うとふいに吐き気が込み上げてきて、最後にはほとんど駆け込むように浴室へと入った。
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