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第4話
✴︎
気が付いたら、理一郎はいなくて。
体は痛いんだけど、体もシーツもキレイになってて。
昨夜のことが夢みたいに感じて、部屋を見渡してしばらくボーっとしてしまった。
そして、罪悪感に苛まれる。
僕が発したあの一言に、目を見開いた理一郎の.......理一郎の悲哀と憤怒が入り混ざったような瞳が忘れられない。
あんなに優しくしてくれてたのに。
あんなに愛情を注いでくれてたのに。
僕は理一郎を信用できずに、不安な僕だけが不幸みたいに感じて........さらに、広滝さんまでまきこんじゃって。
不安定な感情のまま、あんなことを言ってしまったから........理一郎が怒るのも無理はない。
全部、僕が悪いんだ。
素直に理一郎の優しさを受け止めて、その幸せを実感して、心の底から笑っていたら、こんなことにはならなかったのに。
理一郎を傷つけてしまって.....。
取り返しがつかないことをしてしまって.....。
僕はどんな顔をして、理一郎に接したらいいんだろう。
昨日植えた植物の手入れをして、一息つくために僕は木陰に入った。
ポピーが風に揺れてキレイで、いつもはそれを見るだけでも楽しかったのに、そんな感情すら湧かない自分がイヤになる。
..........ここに、こない方がよかったのかも。
オメガとか関係ないって思ってたのに、結局、オメガに足を引っ張られて、オメガってだけで周りの人を混乱させてしまってるようで.......。
涙は出ないのに、胸が張り裂けそうになって、僕はうずくまったまま、動けなくなってしまったんだ。
「ミライ.......体、大丈夫?」
「もちろん。平気だよ。今日も庭いじりしちゃったから!!」
仕事から帰った僕を見る理一郎の顔が、あまりにもツラそうにしていたから、僕は気にしてない感を前面に押し出して明るくそう言ったんだ。
理一郎の顔が少し緩んで、小さく笑う。
「理一郎、昨日はあんなこと言ってごめん」
「ミライ.......」
「色々あって、色々考えてちゃって.......理一郎が大好きなのに.........ごめんなさい」
そう言い終わらないうちに、 僕は理一郎にキツく抱きしめられた。
「俺の方が、悪いのに.......ごめん、ミライ。
大事にしようって決めてたのに.......」
「きっかけを作ったのは僕だから。理一郎が気にすることじゃないよ。大丈夫、僕は、全然平気だから」
ふと、理一郎の大きな背中が震えているのに気づいて、僕は理一郎の背中に手を回した。
「理一郎、僕は大丈夫だから、ね?」
「ミライ.......」
やっぱり、本心を言うことができなかった。
理一郎の優しさが怖いんだ、って。
この幸せが怖いんだ、って。
だからまた、僕は、不安になってしまうんだ。
「え?温泉、旅館?」
理一郎がニコニコしながら僕に言った。
「この間、友達のパーティーに行ったでしょ?その友達がミライも一緒にって招待してくれたんだ」
あれから、しばらく経って。
僕と理一郎は何事もなかったみたいに元に戻って、広滝さんとも........。
そんな矢先の理一郎の放った一言に、僕は少し動揺してしまった。
「そんなとこ.......僕、行ったことないし。
それに野菜の手入れとか.........」
「野菜の心配はしなくていいから。それに.....」
「それに?」
「友達のパートナーはミライと一緒。オメガなんだよ?」
僕と理一郎を乗せて、車はなめらかに走っていく。
結構、長い間走って。
理一郎の友達のとこの温泉旅館を目指す。
流れる景色もにぎやかな市街地から、緑あふれる風景にかわって........。
この景色はあの日、僕が必死で焼き付けたあの景色に似ているから、僕はまた、外ばっかり眺めていた。
「ミライ。外、そんなに気になる?」
「うん.......施設に連れていかれた日も、こんな感じだったなぁって」
「ミライ......」
「あっ!ごめん!そんなつもりで言ったんじゃないから!
温泉旅館楽しみなんだよ!!
行ったことないし!!
楽しみなんだけど..........外なんて久しぶりすぎて..........緊張しちゃって」
変に声が上ずって言い訳ばかりしている僕の肩を、理一郎はそっ抱き寄せる。
「大丈夫だから、ゆっくり楽しもう、ミライ。........もっと、早くこんな風にミライと外に出かければよかったな........」
僕の耳に入ってきた理一郎の穏やかな声は、どことなく寂しそうで、また、僕は不安になってしまったんだ。
すごいっ!!畳の部屋が広いっ!!
部屋の中にお風呂があるに、外にもお風呂がある!!
なんで!?
僕は......僕はもう子供じゃないんだけど、初めて見る温泉旅館にすっかり興奮してしまって、部屋の中をあっちへ行き、こっちへ行き。
理一郎に笑われるまで、ひたすら部屋の中を探検していたんだ。
.......こんなとこも、あるんだなぁ。
僕が今まで生きてきた世界は、本当に狭すぎて。
僕は今、本当に、自由になった気がした。
「ミライ、ちょっと来て」
縁側で露天風呂を眺めていた僕に、理一郎が声をかけた。
「ミライ。友達を紹介するよ。黒武者忠明、この旅館の副支配人なんだ。そのお隣にいるのがパートナーの檀さん」
「はじめまして、ミライといいます..........檀?!」
挨拶をして目線をあげたその先に........檀がいた。
時が止まったみたいに.......僕の目は檀に釘付けになって、息をすることさえ忘れてしまうほど......それくらい、驚いたんだ。
「久しぶりだね。ミライ」
施設にいた時から変わらない、キレイで、触れると壊れてしまいそうな、檀の笑顔が胸に刺さった。
泣いてしまいそうになる。
「なんだ、知り合い?」
「同じ施設にいたの、僕たち。ね、ミライ」
僕は頷くことしかできなかった。
オークションの日の、あの時の檀の顔を忘れたことはない。
嫉妬や不安、憎悪が入り混ざった顔で僕を見ていた、あの時の檀の顔を。
今、目の前にいる檀は優しく笑っていて、楽しそうに声を弾ませて........幸せになったんだって、思った。
よかった......よかった、檀。
幸せになってて、本当、よかった........。
「オークションで僕を買った人が、忠明さんと引き合わせくれたんだ」
僕と檀は縁側に座って話をした。
懐かしい分、話したい事は山ほどあるのに。
気が急いてなかなか言葉にならなくて、僕はニコニコ笑いながら話す檀の話を聞いていたんだ。
「忠明さん、優しくて.......僕、番になったんだよ。忠明さんと」
「檀が幸せで、よかった。安心したよ、僕」
「ミライは?」
「僕は......怖いくらい、幸せだよ」
本当に、そう。
理一郎の優しさが怖くて、今手の中にある幸せが怖くて。
全力で幸せだって言える檀が、すごく羨ましかった。
「ミライ。お茶、冷めちゃうよ。せっかく僕が入れたのに」
「あ!ごめん!」
一口啜ると、今まで飲んだことのない味がした。
外の世界は僕が知らないことだらけだから、きっとこれもそうなんだろうなぁ。
「このお茶、なんてお茶?」
「リンデンって言う、ハーブティだよ」
「........そう......なんか......体が、熱い」
体が急に熱くなって、汗ばんでくる。
何故か、視界がぼやけてきて.......檀の声がこだまするように響き出す。
「それに少し、クスリまぜたから........ミライ、久しぶりに、また、仲良くしようよ」
檀がにっこり優しく笑って、僕を見た。
「理......理一....ろ」
理一郎、助けて.......。
って、言いたかったのに。
僕の意識はそこで真っ暗になってしまったんだ。
.......ハァ........ハァ.........ハァ........。
.......僕の近くで、苦しそうに息をしている人がいるみたいな。
そんな息遣いで、目が覚めた。
目を開けるんだけど、まだ視界はぼんやりしていて、僕の体は燃えるように熱を帯びていて。
体を動かすこともできない。
「........ミライ.......起きた?.......」
檀の声が荒い息遣いとともに僕の耳に届いて、僕は声のする方にぼやける視線を向けた。
「.......!!......ま、ゆ.....み......」
何?......どうした......の?!.......何、してるの?檀!!
まるでヒートが来たみたいな乱れた顔をした裸の檀が、ロープで幾重にも縛られて柱に繋がれている。
たまに感じてるみたいに腰を揺らして、恍惚とした表情で、檀は僕を見下ろしていた。
「........気持ち、いいんだよ.....これ。忠明さんがしてくれるの........」
「!!」
僕は思わず手で口を押さえた。
押さえてないと、声を出して泣いてしまいそうだった。
僕の知ってる、檀じゃない。
ヒートのリハーサルの度に、キレイな頰を涙で濡らす、儚くて、かわいい、檀。
そんな純粋な檀が.......。
僕の目の前にいる檀は、欲情に溺れて、快楽から逃れられない、そんな顔をした檀で。
涙が溢れて、止まらない。
檀、幸せって、言ったじゃないか......。
忠明さん、優しいって、言ってたじゃないか......。
何で.......何で!?
今すぐにでも檀に絡んでるロープをといてあげたいのに、体が熱くて重くて、言うことを聞かない。
もがき苦しむ僕を嘲笑うかのように、熱っぽい瞳で僕を見下ろして言った。
「........ミライ......僕たち、いつも.......一緒にだったでしょ?........また、仲良く......一緒にしよう?.........ミライのご主人様と一緒に」
✴︎
ミライがさっきから見当たらない。
忠明のパートナー、檀さんと話すって言って、もう2時間はたつから。
2人仲良く、縁側で話をしていたはずなのに。
だから、外に連れ出したくなかったんだ。
ミライのキレイな笑顔や華奢な体は、強い風が吹いたら飛んで行きそうなくらい、花みたいに儚くて、俺の腕の中から消えてしまいそうで。
........俺の視界からミライが見えなくなっただけで、胸が締め付けられるくらい心配になる。
どこ行ったんだ、ミライ。
「理一郎」
なんだ、忠明か.......。
ミライの声じゃないってわかってるのに、わかってるのに。
つい、期待して振り返ってしまう。
「忠明、うちのツレ、見なかったか?」
「それがさ、ミライさん具合悪くなって、倒れちゃったみたいで。離れで、今、檀が介抱してるんだ」
ミライ......!!
忠明の言葉に、体が弾かれたように動いてしまう。
弾かれた勢いのある俺の体を、忠明は制すように肩を掴んで動きを止めた。
早くミライのところに行きたいのに......!!
「檀がいるから大丈夫だ。ゆっくり、話をしながらいこうじゃないか、理一郎」
こっちは一刻も早くミライのところに行きたいのに。
わざとなのか、なんなのか。
忠明は焦らすように旅館の広い庭園をゆっくり、遠回りをしているように、ゆっくり進む。
「忠明、早く案内してくれないか?」
「まぁ、そんなに焦るなよ。檀がいるから大丈夫だ」
「.............」
「理一郎の........ミライさんを飼ってどれくらい経つ?」
「.............」
「檀は知人から譲り受けたんだけど、その時からだいぶ飼いならされててさ。
今じゃ、すごくいいんだ。あんなにキレイな顔をしているのに、ヒートの時以外でもすごいさかっちゃってさ」
「忠明?.......おまえ、何言って........」
「あんなにキレイなミライさんを、理一郎はどんな風に飼いならしてるわけ?」
飼い.......ならすって......。
ミライをそんな風に見たこともないし、そんな風に扱ったこともない。
........一回、ミライの香りに当てられてアルファの本能剥き出しでミライを抱いたけど.......。
あんなことしたのもあれ以来ないし........。
大事な人を飼いならすって、忠明の言ってる意味がわからなくて、混乱してしまった。
「忠明、お前.......何、言ってるんだ?」
「そろそろミライさんもいいころだと思うよ。
さぁ、どうぞ。ミライさんが待ってる」
あぁ、もう!!
イヤな、予感しかしない。
忠明は離れの扉を開けて、俺を誘うように微笑んだ。
「!!」
ミライの香りが離れに充満していて、胸の鼓動が大きく、速く、それが肺を圧迫しているみたいにだんだん苦しくなってくる。
忠明が、襖を開けた瞬間、目の前の光景に驚愕しすぎて、体が動かなくなってしまった。
「檀、いいだろ?」
忠明がウットリしたような声で言う。
いい.......って。
初めて見た.......亀甲縛りで縛られてる人.......。
縛られてるのにヒートみたいに乱れて紅潮した顔の檀さんの足元に、ミライが倒れていた。
苦しそうに息を乱して、体を小さく丸くして.......ヒートを我慢している時のミライだ。
ミライに駆け寄りたいのに、俺の体は金縛りにあったみたいに動かない。
.......な、なんなんだ、俺!!しっかりしろ!!
そんな俺を尻目に、忠明はミライに近づいてミライの体に腕を回すと、ミライの小さな顎を掴んだんだ。
........触るな!!ミライに.....ミライに触るな!!
「やめ.....!....さわ、ら....ないで!!」
自由がきかない体を必死によじらせて、ミライは忠明に抵抗している。
その頰に........泣いたあとが、くっきりと残っていて.........。
衝撃だった......頭を殴られたくらいの衝撃.......。
俺があんなに乱暴に抱いた時ですら、ミライは涙を見せなかったのに.......。
ミライは自分のことじゃ、泣かない。
目の前の光景が信じられなくて........。
一緒に苦労を経験してきた友達の姿に混乱して、助けられなくて........ミライは悔しくて泣いたんだ。
「ほら、ご主人様がきたよ、ミライさん。
もう我慢できないんだろ?
檀みたいにしてほしいって、気持ちよくしてくださいって、おねだりしなよ」
「や.....いや......離してっ!!......」
その時、ミライと目があった。
ミライの真っ直ぐな瞳から、涙が溢れ出す。
「理一郎!!助けてっ!!」
ミライの声が俺の耳を貫いて、体のこわばりがスッと解ける。
とっさに、俺は忠明を突き飛ばすとミライを抱き上げた。
........いつも気が強くて負けず嫌いなミライが、俺に頼らない強いミライが.......。
小さく、か弱く、泣きながら俺にしがみつく。
俺はミライを抱き上げた手に力を込めた。
ミライを離さないように。
ミライをこれ以上、怖がらせないように。
「悪いな忠明。俺たちこんな趣味ないんだ。
悪いけど帰らせてもらうよ。.......ミライも怖がってるし」
「残念だな。ミライさんと一緒にすれば、檀も喜ぶと思ったんだけど」
突き飛ばされた忠明は、ゆっくり立ち上がると檀さんに唇を重ねる。
倒錯的な、排他的な。
その瞬間.........檀さんがこちらに視線を向けて、笑った気がした。
ミライを蔑むように.......ミライを拒絶するかのように、そんな目をして、微かに笑った。
俺はミライがその視線に気付かないように、俺の体で遮蔽して離れを後にする。
檀さんはもう、ミライの知ってる檀さんじゃないんだな、って、思ったんだ。
俺はミライを抱えたまま足早に旅館をでて、急いで車に飛び乗った。
旅館から離れると、腕の中のミライもだんだん落ち着いてきて、それでも、俺から離れずにずっとしがみついている。
よっぽど、キツかったんだろうな、ミライは。
「温泉.......泊まれなくなっちゃったね.......理一郎」
「また行けばいいよ。今度はちゃんとしたところを探すから」
残念そうに呟いたミライは、俺の言葉でクスッと笑う。
..........よかった。笑ってくれた。
俺は心のつっかえがとれたように感じた。
あんなことがあって、またミライが前みたいに笑ってくれるか、心配だったんだ。
「助けにきてくれて......いつも僕がピンチの時に助けにきてくれてありがとう」
「俺はいつでもミライを助けにいくよ」
「僕、囚われの姫君みたいだ」
ミライが苦笑いをして言った。
「じゃあ、俺は王子様かな?」
ミライが楽しそうに笑って、つられて俺も笑って。
俺たちはそれだけでいいと思った。
忠明たちみたいな、遠回りな愛情表現はいらない。
こうして、体を寄せ合って体温を感じる。
そして、笑いあって......素直に気持ちを伝えて。
それが一番なんだって、大事なんだって思ったんだ。
✴︎
家に帰り着いても、僕はまだ檀に飲まされたお茶のせいで体が動かせないでいた。
温泉、入りたかったなぁ。
あんなとこ行ったの、初めてだったのに。
........でも、僕は今、すごく幸せなんだ。
理一郎は僕がどんな状況でも、助けにきてくれる。
僕が怖がっていても、ずっと力強く抱きしめてくれる。
ようやく.....。
僕は理一郎の優しさに素直に甘えられて、幸せを現実のものとして感じられるようになって........。
もう、優しさも幸せも、怖くない。
今なら、ちゃんと、本当の気持ちを素直に言えそうな気がするんだ。
広いベッドの上で、僕と理一郎は体を寄せ合って横になっていた。
僕は、理一郎の体に腕を回す。
「理一郎、僕は、いまいち理一郎に素直になれなくて。
僕、運命って言葉、好きじゃなかったんだ。
運命ってだけで、自由じゃなくなる気がしたんだ。
だから、理一郎が僕にくれる優しさとか愛とか.......運命に縛られて、運命じゃなくなったら、すぐなくなっちゃうんじゃないかって、いつも不安で。
でも、今は、運命を信じてる。
理一郎に出会ったのも運命で、僕がオメガで理一郎がアルファってのも運命で。
でも、理一郎、僕......運命を超えるくらい理一郎が大好き。
大好きだよ。
生意気でどうしようもないヤツだけど、僕のこと好きでいてくれる?」
今の僕の精一杯の素直な気持ちを、ようやく、理一郎に伝えることができた。
嬉しくて、心が満たされていくようで、涙がでてくる。
理一郎は僕の涙を拾うように頰にキスをした。
「........なんだよ、いつも何があっても泣かないのに、なんでこんな時に泣くんだよ.......ミライ」
そして、ゆっくり、強く、僕を抱きしめる。
「大好きだ、ミライ。これからもずっと」
檀のお茶で無理矢理ヒートっぽくされた僕の体は、理一郎を求めてやまない。
理一郎の舌が、僕の耳たぶから胸をとおって優しく舐めるたび。
理一郎の手が僕の中の感じるところを指で弾くたび。
僕のすべての体が理一郎の刺激を拾って.......声が上がる......体が.......火照る。
足が.......開くし、体が.......反り返ってしまう。
「愛しいミライ......ずっとそばにいて」
そう言って理一郎が僕の中を奥まで熱くさせるから、一気にクラクラしちゃって.......。
僕は理一郎に体を預けたんだ。
僕の中は今までにないくらいグズグズになっちゃって、それを理一郎が強く優しく貫いて。
この時、初めてオメガでよかったって思ったんだ。
オメガの僕がアルファの理一郎を深く受け入れて、アルファの理一郎がオメガの僕を奥まで満たして。
「あ.......ふぁ........」
こんなに......こんなに気持ちいいのに。
心と体がシンクロしたら、こんなに気持ちいいのに。
素直に好きって言えば、身も心もこんな楽になるのに。
檀にも.......いつか、わかる日がくるんだろうか。
「あそこで理一郎が忠明さんの言ってる事にのっかっちゃって、僕を縛り出したらどうしようか、って本気で怖かったんだ、僕」
あの時、泣きながら本気で思ってたんだよ。
あんな非現実的な状況にほだされちゃったら、なんて。
僕の杞憂に終わったからよかったけどさ。
「何?縛られたかった?」
「そんなわけないよ!!理一郎!!」
「あはは、ごめんごめん」
僕は理一郎をポカポカ叩いて、そんな僕を理一郎は優しく、なだめるように抱きしめる。
「ミライのイヤなことはしないよ」
あったかくて、理一郎から離れたくなくて。
僕は、理一郎に体を預けた。
「理一郎、僕のそばにずっといて」
素直になれなかった僕は、いつの間にか全開で素直になってて、心の底から理一郎に想いを伝えることができる。
「ミライ」
「何?」
「今度、遊園地行かない?」
「行きたい.......けど、人が多いの苦手だし」
「貸し切る?」
「.........理一郎」
「冗談だよ。ちゃんと人の少ない時に行こう、遊園地」
「うん」
そんなの別に行かなくてもいいんだ、本当は。
理一郎がいれば、幸せなんだ..........でも、今は。
怖くない。
その幸せは、本物で、素直にその幸せが体に染み渡って行くんだ。
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