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1 新堂靖幸という男
活発、明瞭、前向き、健康……
自分とは真逆なタイプの男を遠巻きに見つめる。
「……暑苦し」
ちょうど三限目の体育の時間だろうか。グラウンドには体操着を着た複数の男子生徒。その前で何かを言いながら少々オーバー気味に身体を動かし指導をしている様子の体育教師の姿があった。
日焼けした肌、短く刈られた髪、健康的な焼けた肌に映える白いTシャツ。以前廊下ですれ違った時に見たこの体育教師は、笑うとエクボが浮かび愛嬌のある顔をしていた。それでも自分と同い年くらいだろうか……とりあえず声が大きくて煩い、そんな印象だけが強く記憶に残っていた。
遠くて何を言っているのかまでは聞き取れないけど、あの体の動きを見てるだけでおおよそ何をやっているのかは見当がついた。
この学園に配属されて間もない新堂靖幸 は校舎から少し離れた東屋からぼんやりとその体育の授業を眺めていた。
昔から人付き合いをあまりせず、感情を表に出すこともしない。気の許せる友達もろくに作らず今まで生きてきた。かと言って幼少期から虐めなどにあうこともなく勉強も出来ていたので、これといって苦労もせず無難に大学へと進学した。
卒業後、親の知り合いの警備会社に就職を決め、研修期間を経てこの学園に警備員として配属されたのが三ヶ月前のこと。
人と接するのが苦手というか、正確には億劫だとか面倒だとかいう感情が多くを占める。別に対人恐怖症とかそういう訳じゃない。他人に合わせて会話をしたりするのも問題なく出来る。面倒だから敢えてしないだけ──
「人付き合いが苦手なんです」
そうはっきりと言っておけば色々と深入りもされず当たり障りなく会話を済ませることができるし、相手の方から遠ざかってくれるので都合がよかった。稀に「それなら克服させてやる」と言ってしつこく誘ってきたりする輩もいたけど、有難迷惑この上なかった。
少し長めの髪に中性的で綺麗な顔立ち、そしてクールな立ち振る舞いが魅力的だと言い寄ってくる女性も多かった。
言われるがままお付き合いなんかもした事があったが、相手が勝手に怒って別れるというパターンで長い付き合いに発展することもなかった。靖幸に言わせれば、好きだなんて一言も言ってないし勝手に恋人ヅラしてただけ。
自分にも勿論、他人にも興味が湧かないこんな性格なのだからしょうがない。警備員という仕事はそんな靖幸にとって、とても気楽でやりやすい仕事だった。
全寮制のこの学園は元々セキュリティも万全なので、ぐるっと学園内を巡回した後は自分で適当に休憩時間を決め、こうやってのんびりと過ごす。交代の時間までに警備室へ戻ればいい。
靖幸の最近のお気に入りの場所。この東屋はグラウンドより少し高台の場所にあるため風がよく通って気持ちが良かった。
ここ数日、連続して見るこの光景。熱血という言葉がぴったりな体育教師を遠巻きに眺めながら、その動きを目で追い靖幸は笑みを浮かべた。
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