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解れる

 剛毅がシャワーから出てくるまで靖幸は落ち着かなかった。  強引に「泊まる」と言って勝手に行動をする剛毅。泊まるということは、そういうことだよな? と自問自答しながら、落ち着きなく寝床を整えた。 「靖幸さん、思った以上に俺のこと好きですよね」 「なんのことだ? そんなことない」 「いや、そこは否定しないで」 「お前は友達だ……」 「ふふ、友達はいやらしいことはしないと思うけどな。それにもう恋人同士でしょ? 違うの?」  出てくるなり嬉しそうな剛毅の言葉に、心外だと言わんばかりに即答する。先程の店でのことは立派なヤキモチだと指摘され納得がいかず、首を傾げながら靖幸もシャワーを浴びに向かった。  嫉妬心。独占欲。執着。好奇心……  人を好きになる、という感情を知った初めて剛毅を抱いた時のことを思い返す。感情に任せ自分の欲のまま剛毅を抱いた。激しい律動に喘ぎ啼く剛毅に興奮した。でも今はなぜかあの時のような激しい感情は消えている。正確には、完全に消えているというわけではなく、感情のまま求めることに躊躇いを感じてしまう。自分の知らなかった感情が溢れてどうしたらいいのかわからなかった。  我ながら面倒な性格だとわかっていた。剛毅もそれをわかった上で付き合っているのだろう。その見透かされたような気持ちになることにも抵抗があり、どうにも素直になれずにいた。   「さっき言ってた、困ってる……ってなんのこと?」  唐突に剛毅に問われ、少し考えたものの靖幸は言葉に詰まる。思わず口走ってしまったこの面倒で複雑な気持ちをどう話したらいいのかわからなかった。 「大丈夫ですよ? 俺、実は性欲強いので。靖幸さんの好きな時にしてくれて全然構わないです。てか今日は抱いてくれるんですよね?」  剛毅は返事に困り固まっている靖幸に抱きつき、強引にベッドまで移動し押し倒す。そして「そういうことでしょ?」と笑顔で言うと、そのままスムーズにキスをした。 「全く……付き合う前のあの強気な靖幸さんはどこ行っちゃったのさ。もう俺たち恋人同士ですよ? 俺にはなんか遠慮してるみたいに見えるけど、そんなのいりません……だから早く抱いて」  自分が組み敷く側の剛毅に押し倒され押さえつけられる。そう、セックスをする流れになった時、不慣れな靖幸は剛毅にされるがまま事が進んでいくことにも胸の奥がもやもやしていた。   「抱いて、と言うなら大人しくしろ。俺の上にくるな」  靖幸は不満を隠すことなく剛毅を押し退け、逆にそのままベッドに押さえつけた。ぺらぺらと饒舌だった剛毅がはっとして黙り込むから少し不安になって躊躇する。 「……嫌か?」 「まさか! すけべな靖幸さん大好きです」  何だよその言い草は……とちょっと気が抜けた靖幸はそのよく動く唇にキスを落とした。 「んっ……あっ……ああ、ん……」  遠慮はいらない、そう言われた靖幸は見透かされていたと苛々する。それでもやっぱり自分の愛撫で可愛らしく快感に喘ぐ剛毅を見ると愛おしいと思う。戸惑い固く強張った感情を剛毅は察して溶かしてくれ、そんな俺を受け入れてくれる、そう思うと素直に嬉しく感じた。 「靖幸さん……あっ、んんっ……んっ、き……気持ちいい?」 「ああ……」  少し乱暴に組み敷かれ、激しい律動に頬を紅潮させながら嬉しそうにそう聞いてくる剛毅。好きな時に好きなだけ求めろ、と、最中何度も剛毅に囁かれ靖幸は夢中で快楽を貪った── 「あなただいぶ変わってるし、難儀な性格なのはもう十分わかってるので、俺の前では思ったままものを言ったり行動してくれていいですからね。 今更気を使ったり……は、無いか、ははっ」  靖幸の横で満足そうに横になる剛毅は楽しそうにそう言った。 「……あぁ」 「ん? 何か言いたいことあります?」  少し期待したような顔の剛毅に少しだけイラッとする。それでも言われた通りに靖幸は思ったまま燻っていたモヤモヤを口にした。 「セックスする時、お前のペースになるのは面白くない」 「……へ?」  きょとんとする剛毅に向かってさらに続ける。 「これからは俺のしたい時に、やりたいようにやるから。性欲……強いんだろ? そう言ったよな?」 「ええ……言ったけど、え? ちょっと待って? またするの? あっ……嘘、あ……」  きっとこれからも自分がよくわからなくなったりイライラして剛毅を困らせることがあるだろう。それでもそれを理解し、こうやって解してくれる剛毅の前でなら、少しづつ素直にもなれるだろうなと靖幸は思う。 「靖幸さん、待って……激しい……から、あっ、んっ」 「うるさい。もっと俺を感じて喘いでろ……」  とりあえずは、セックスの時だけでも自分が優位に立ちたいと靖幸は心に決め、再び湧き上がる色情を隠すことなく剛毅にぶつけた。 「多分俺も性欲、強いから」  覚悟しておけと言わんばかりに、靖幸は呆気にとられる剛毅の唇にキスをした。  end

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