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第12話:バルトロメオ12

(余計な情報って……)  ユァンはパチパチとまばたきをした。  そうか。この人は、法王庁の目としてこの聖クリスピアヌス修道院を視察に来たんだった。上に知られてはマズいことが何かあるとして、シプリアーノ司教やここの修道士たちがそれを隠そうとするんじゃないかと疑っている。 「それはあり得ません。知られて困ることなんて何もありませんから……」  ユァンは小さく息をつき、バルトロメオの顔を上目遣いに見返した。  すると彼は片方の口角だけを持ち上げ、なんとも言えない笑顔で応じた。 「そうか、ならむしろ都合がいい」  修道服の腰のラインに大胆な腕が伸びてくる。 「こっちはアンタのことを、いろいろ知りたいと思ってるから」 「えっ、僕のこと?」  思わず声が裏返ってしまった。階段の踊り場で腰を抱き寄せられ、耳元でささやかれる。 「ああ。とりあえずアンタのこと。アンタもいろいろありそうだしな」 「……!? 何もないですよ……」  本当に何も心当たりがなくて困ってしまう。 「それより近いです、ブラザー」  そっと非難すると、今度は茶目っ気のある笑顔で返された。 「俺のことは『バルト』でいい」 「えっ、でも……」 「嫌か?」  嫌というか、法王庁からの客人を、そんな気楽な呼び方で呼んでいんだろうか。  答えに困っていると、彼は密着させていた体を離し、大きな体を折り曲げる。  いったい何をするのか。ますます戸惑うユァンを前に、彼はナイトが主君にするように、頭を垂れてみせた。 「では名前も要りません、俺のことは顎で使ってください」 「え……?」 「だって俺は、アンタの下に付く見習いなんだ」  階段の踊り場にひざを突いたまま、彼は挑発するような瞳でユァンを見上げた。 (本気なの? それとも僕を困らせようとしてる?)  ユァンは思案した結果、彼に一歩近づき、耳元でそっと伝えた。 「どうか、普通にしていてください……ここでは修道士も修道士見習いも、そう違わない扱いです」  厳密には違うけれど、一旦そういうことにしておく。  実際のところユァンは修道士の中でも下っ端で、その上気の弱いこともあって周りからは見習いと変わらない扱いを受けている。だから今の言葉はあながち嘘でもなかった。 「普通に、ね」  バルトロメオが大きな体を起こし、ローブのすそについた埃を払う仕草をする。 「分かった。じゃあ……俺とアンタは友達だな」 「友達……」 「ああ、それではマズいのか?」 「いえ……マズくないです……」  仕方ない、そういうことにしておこう。またさっきみたいにひざまずかれても困る。 「じゃあ行こうかユァン、腹が減った」 「はあ……」  敵か味方か。この人が何を考えているのか分からない。  いつの間にか先にたって階段を下りている客人を、ユァンは戸惑いながら追いかけた。

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