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第31話:バルトロメオ31

 にわかには信じられなかった。けれど体は震え、足枷でもはめられたように足が床から持ち上がらない。  バルトロメオの中指の先が、ユァンの鼻筋を南下し喉仏(のどぼとけ)の辺りで止まった。 「……信じられないか。だが初めてしまえば、人は簡単に本能に流される。林檎を口にしたら、必ず咀嚼(そしゃく)して飲み込むだろう。そこに理性の介入する余地はない」  この男にとって神とは、理性の輝きそのものなのだろう。  そのことを、ぼんやりとだが理解した時――。礼拝堂の天窓が銀の軌跡(きせき)を描きながら、突然視界に降ってきた。 「……!?」  背中に硬い感触。ユァンは胸を押され、聖書を広げるための長机の上に押し倒されていた。机に打ち付ける直前で、後頭部をバルトロメオの手のひらに(かば)われる。 「あ……」  彼はユァンをまたぐようにして机に片ひざを乗せ、そこからこちらを見下ろした。その冷ややかな目に息を呑む。  こんな時なのに、彫りの深い顔立ちがきれいだと思った。 「逃げたかったら逃げろ。俺は今、アンタを犯そうとしている」 「嘘……」 「嘘じゃない」 「えっ……でも、なんのために!?」 「純粋すぎるアンタに、人間の本性を教えるためだ」  細長い平机の上。両膝で腰を挟み込むようにして、バルトロメオがユァンの上に乗る。彼は天井を見上げふうっと息をつくと、何かを決意したように動き始めた。  大きな両手がユァンの首元に伸びてきて、作業着の前のボタンを乱暴に外す。 「わっ、えっ、何!?」  勢い余った手にボタンのひとつがちぎり取られ、床を転がるような音がした。 「バルト? バルト!」  シャツを捲られ、(あら)わになった上半身を硬い手のひらが性急に()い回る。 「細い! こんなんじゃ折れちまう」  素肌を刺激し脇腹まで下りていった両手が、強く腰をつかんだ。 「折れる?」 「そうだ、これからアンタの中に俺の雄の部分をぶち込んで、死ぬほど揺さぶるんだ! 体がしっかりしてなきゃ、死ぬ思いをする。アンタをそんな目に遭わせたくはなかったが」  バルトロメオはそれがすでに決められた未来のように言った。 「そんな……嘘……」  唖然とするうちに彼の左手が脇腹を撫で、腰の後ろへ回り込んだ。硬い指先が、作業着の()い目を押しながら下へとたどっていく。 「んっ、そこ!」  後ろの(すぼ)まりに布越しの指が食い込んで、ユァンの腰が反射的に跳ねた。  ガタンと机の鳴る音が、静かな礼拝堂の天井に響く。 「バルト、駄目、そんなとこ!」 「男同士はここでするって、まさか知らないわけじゃないだろう」  耳元にバルトロメオの震える吐息がかかった。  いけない手から逃げようとして、背中が机の端から落ちそうになる。 「わっ!」  慌てて彼の首につかまったのと、下を脱がされたのが同時だった。作業着のズボンと下着がひざ下まで下ろされ、下半身が露わになる。 「えっ、えっ!?」  こんな場所でお尻を出すのはマズい。自分がこれから何をされるかより、ユァンはそのことを気にしてしまう。  バルトロメオの体につかまったまま祭壇の方へ首を回した時、すでに後ろの窄まりを見つけ出していた彼の指が、大きくそこに踏み込んだ。

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