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第37話:教会の子供たち3

「あなたが人を好きになったのは、その人の無茶が原因ですか?」 「え……分からない……でも、きっとそうです」  抱かれて好きになってしまうなんて、肉欲に溺れているみたいで恥ずかしい。 「素直ですね」 「え……?」  カーテンの向こうの神父に小さく笑われた気がしてドキリとした。 「それでかわいいあなたの心を得られるのなら、時には無茶も悪くない」  そういうことになるのだろうか? 「だとしても、あの人が僕をどう思っているかは……本当に、いったいどう思っているのか!」  バルトロメオの気持ちが神父に分かるはずもないのに、すがるように疑問をぶつけてしまった。  静かなため息が聞こえ、また神父が口を開く。 「考えてみると……彼が無茶をしたのは、深層心理ではあなたの瞳に自分を映したかったからなのでしょうね」 「え……?」  期待を持たせるような言葉に、ユァンの胸はざわついた。  あの時は内偵捜査のためにユァンの協力が必要だからだと思ったけれど、もしそんな理由もあったなら……。それは素直に嬉しい。  神父が続ける。 「愚かなことに、いくつになっても男は、好きな相手の気を引きたいものです」 「で、では神父さまは……彼が、僕のことを好いていると?」  話が噛み合っているのか分からない。けれど神父の言わんとすることが、そういうことのように思えて戸惑った。 「好きだと言われませんでしたか?」 「…………」 「愛している、とは」 「………………」  必死に思い返してみる。バルトロメオの口からそれそのものの言葉は聞いていなかった。 「いえ、ただ……僕のことを天使の顔をした悪魔だと。それから、かわいいって……」  言っていて頬が熱くなる。  神が内心を裁けないとしても、こんなふうに浮ついた気持ちになることはやっぱりいけないことのような気がする。それを思うと、なんともいえないため息が出た。  カーテンの向こうの神父がつぶやくように言う。 「それは愛しているの意味だ……」 「……!?」 「……好きだよユァン。どうしようもなくアンタに惹かれてる」 「あのっ、今なんて!?」  椅子ひとつしかない狭い空間で立ち上がる。途端に頭を天井に打ち付けそうになった。 「恋することを神は禁じていない、それは断言する。それから修道士が肉の愛を知ることの是非については、それを禁じる我々の宗派は古いよ。今後見直されていくだろう」  打って変わって意志のこもった声がそう告げてきた。 「それから、その彼に伝えてくれ。仕事を忘れるなと」  カーテンの向こうから聞こえていた声が遠のく。離れていく足音。 「……え、待って!」  ユァンは慌てて告解室の小部屋を飛び出した。  そして段差につまずきかけて体勢を立て直した時には、もうそこに人の気配はなくなっていた。

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