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第38話:教会の子供たち4

 日曜礼拝の大聖堂を離れ、昼食と午後の祈りを終えたユァンは山羊小屋に向かった。今日も小屋の掃除をし、山羊たちの健康状態をチェックする。  囲いの中の山羊を一頭捕まえ爪を切っていると、大聖堂の方からバルトロメオが戻ってきた。 「今日も元気そうだな」  囲いをまたいで入ってきたバルトロメオのところに、山羊たちが集まっていく。  今の時間に大聖堂の方から戻ってきたところを見ると、あの告解室にいた神父はやはりバルトロメオだったんだろう。山羊たちの頭を撫でる彼の横顔を見て、ユァンはそう思った。 「バルトは神父の資格を持ってるの?」  聞くと彼は肩をすくめてみせる。 「神学校卒業と同時に。教区司祭の推薦でな。ほぼ自動的に神父の資格が付与された」  ケイ教の叙階(じょかい)条件は厳しくて、誰もが神父になれるわけではない。神学校での成績がよっぽど優秀で、同時に奉仕活動などでの実績が認められれば即叙階ということもあり得るが、そうでなければなかなかない。本当に〝自動的に〟ならバルトロメオは特殊な例のはずだ。  シプリアーノ司教が彼のことを、枢機卿(すうききょう)の甥で将来は法王の側近にも枢機卿にもなり得る人物だと言っていたが、そういう待遇を考えるとやっぱりエリートなんだなと思ってしまう。  けれどもそれより、いま気になっているのは……。 「じゃあ、告解室にいた神父は……」  山羊の爪に視線を戻して、ドキドキしながら聞く。神父の資格を持っていなければ、告解室で懺悔を聞くことはできない。剪定(せんてい)ばさみで慎重に爪を切り、二本目の前脚が片づいたところで返事が聞こえてきた。 「あれは悪かった。けど、ユァンが来たのは想定外で……」 「想定外?」 「俺のターゲットは昨日の夜、礼拝堂から逃げていったやつらだったんだ」  ハッとして顔を上げたところで、股下に押さえ込んでいた山羊がそこをすり抜けて逃げていく。後ろ足の爪を切り損ねてしまった。 「え、来たの?」 「来たよ。礼拝堂で待ち伏せされたと思って、びびって懺悔しにきた。怒られる前に謝っとこうって考えだな。信心深いことだ」  苦笑いを浮かべたバルトロメオが、ユァンの手から逃げた一頭を追い詰める。 「じゃあ、バルトは内偵捜査のために告解室に……」 「ああ。今日の告解担当がシプリアーノ司教だったから助かった。法王庁の権威をちらつかせたら担当を替わってくれたよ。すげー嫌そうな顔してたけど」  司教の渋い顔が目に浮かんだ。  バルトロメオがさっきの山羊を押さえ込んでくれたので、ユァンはまた跨がって山羊の後ろ足を捕まえる。 「それで昨日の夜、礼拝堂に来てたのは……?」 「修道士同士のカップルだな。一応、神の代理で告解をした俺としては誰かということは言えないが……ソドミーとはいえ合意の上だ。行儀は悪いが責めるべきことじゃない。俺が責められるはずもないし」  そうなのだ、あそこでああいうことをしたのは自分たちも一緒だ。思い出し、顔が熱くなるのを感じながら、ユァンは剪定ばさみに力を加えた。 「それよりもだ」  バルトロメオが山羊の頭の方を押さえながら続ける。 「その告解室に来たやつによると、合意のないソドミーを疑うなら、ペティエ神父を調べろってさ」

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