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第40話

春side 郁の呼吸はだんだんと落ち着いていき震えも止まり、そのまま眠ってしまった。 看護師さん曰く、『パニック障害の1つではないか』と言われた。 パニック障害のことは事前に笠原先生から聞いていたので、なんとなくわかっているつもりだった。 でも、いざ大切な人がそうなると怖くてなにもできなかった… 顔色の悪い郁を見つめるのが怖くて俯く。 「春くん」 そう呼ばれて俺が顔を上げる前に陽太さんに抱きしめられた。 「大丈夫?」 「……すいません」 すごく声が震える。 何かよくわからない感情が襲ってくる。 「謝らなくてもいいよ。春くんは悪いことしてないんだから。」 「……すごい怖くって…」 「…それは、多分…大切な人を失う怖さかな?失ってしまったらどうしようっていう恐怖。」 「…ぁ…そっか……」 心の中でストンと引っかかっていた何かが落ちた。 今まで生きていた中で人を失ったことがない。 母方の祖父は俺が生まれる前に亡くなって、母方の祖母は今現在も元気だ。父方の祖父母にいたっては元気どころではなく、日々スポーツをして体を動かし楽しんでいるぐらい元気だ。 だから、この感情がよくわからなかった。 「郁のこと大切にしてくれてる証拠だね。ありがとう。」 俺はなにも返事ができなかった。

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