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第121話
春side
お風呂場からガタンガタンと音がする。
「郁?」
微かに「いっ……やめて…もお……ぃや……」と声が聞こえ、ドアをガっと開ける。
「郁!?郁!!」
棚に寄りかかる郁。
棚の中に入れていた小物が落ちているから、倒れ込んだ時に当たったのだろう。
「頭とか打ってない?…一旦動くからな?」
郁を横抱きにして抱き上げ、お風呂場から出る。
ギュッと力いっぱい俺にしがみつく郁。
抱きしめたまま、ベッドに座る。
「郁?どこにもいかない。離れないから、少しだけ離して。じゃないと郁が苦しいままだよ?」
「…っいや…!…っ…」
「郁。大丈夫だから」
ぽんぽんと優しく一定の速さで背中を叩く。
「ゆーっくり深呼吸して。ほら、ゆーっくり。」
「…ぃ、や……」
さっきよりもギュッと強く痛いくらいにしがみついてくる。
「大丈夫。大丈夫。」
郁はずっと「嫌」「ダメ」「やだ」を繰り返し言う。
郁の意識はどこへ向いているのか分からない。
ずっと必死に俺の腕の中でもがく。
頭をぐっと俺の肩に押し付ける。
「大丈夫。どこが痛い?苦しい?…ゆっくり呼吸してごらん。ほら…すって、…はいて…すって…はいて…、うん、そう、その調子。」
郁の呼吸に合わせるように自分も呼吸をする。
「…肩の力抜いてごらん?、…そうそう。」
郁の体の力が一気に抜けていく。
「ずっとそばに居るから……このまま、寝てもいいよ」
郁は何か言いたげな目をこちらに向けた。
だけど、何も言うことなくその瞳を閉じて規則正しい呼吸で寝息を立て始めた。
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