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第1話 ライバル

 プライバシー、という言葉はこの学校ではまた生まれていないとばかりに、掲示板に堂々と張り出された紙には生徒の名前と、成績の順位が書き記されていた。  西園寺 劉輝(さいおんじ りゅうき)は、数字が小さくなっていく用紙の右側の方へと歩みを進めた。すると、掲示板の前に群がっていた生徒たちが、まるでモーセがエジプトから脱出するときに割った海のように、ざあっと廊下の端から端へと寄せていった。  西園寺は用紙の右端……つまりは、首席の位置まで移動すると、すっと顔を上げそこに書いてある名前を確認した。  用紙の右端には、こう書かれていた。 【 1位 幡山 晃 2位 西園寺 劉輝 】  目に止まった文字を見た瞬間、空気が一瞬にしてピリついた。稲妻が走ったように、その場にいた生徒は身動きが取れなくなっていた。 「ま、また……しても……!!」 「ああ、張り出されるの。今日だったか」  その場にいる生徒の誰もが身動きできないでいる中、春風のごとく穏やかな声色が聞こえてきた。 「幡山(はたやま)……(あきら)!!」 「その様子だと、今回は僕が一位のようだな」 「……!の間違いだろう!」  西園寺に敵意の視線を向けられたのは、どこか頼りなさげな印象の地味な男子生徒、幡山晃。艶はあるが伸ばし放題の黒髪に、四角い黒縁メガネ、張り付いたような薄笑い。明るい髪色で、ノーブルな美貌の西園寺と並ぶと、よりその印象は燻んだものになる。  しかし冴えないが、この学園では西園寺と並ぶ秀才で、また彼のライバルと言える男だった。  このライバル関係は、現状西園寺の方が若干劣勢だ。西園寺は、由緒ある家柄の子息で、さらには勉学以外でも優秀な成績を収める紛れもない天才。一方晃は優秀なのは勉学のみだ。運動神経もパッとせず、部活は同好会、家柄もごくごく平凡。そんな晃に、西園寺はどうしても学業では勝てないでいた。 「普段順位は気にしないから、よく覚えていないよ。西園寺のリアクションで、一位なんだなってわかるくらい」 「優劣なんてどうでも良いと?聖人気取りも大概にしろ」 「う〜んそういうわけじゃないんだけど」  常人ならすくみあがってしまう西園寺の睨みも、晃にはまるでなんのその。 「どうでもいいってわけじゃないよ。せめて勉強は、やっぱ他の人よりも出来るって思いたいからな」  キーンコーンカーンコーン……。軽快なベルの音が鳴り響く。晃は曖昧な笑みを髪の毛の下に隠すと、西園寺の横を通り過ぎ次の教室へと向かっていった。 「……なんだ、今の」  西園寺は、どこか引っかかるものを晃に覚えつつも、自身もまた次の授業を受けるべく踵を返し、教室へと戻っていった。

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