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第1話
この国の法律が、少しだけ、本当に少しだけΩに優しいモノに改正されたのは、今から数年前。
αもΩも希少種で、『運命の番』なんて呼ばれる絆で結ばれている相手に巡り合える可能性は少ない。
『運命の番』は親、兄弟、恋人、何モノよりも強い繋がり。
そんな相手に出会う事もなく一生を終える者も少なくない。
ヒート(発情)を迎えても慰めてくれる相手はいない。
薬に頼るのか、独りで耐えるか・・・・・・行きずりの相手に処理させるか。
させるか、は正しくないな。
頼んでないのにΩのフェロモンに勝手に刺激されて寄って来てるんだから。
Ω自身も正常な判断は出来なくなっているし・・・・・・
目をギラギラさせて、後は本能のまま突きまくり、欲望を吐き出しまくって、自分がスッキリしたら、まだ治まっていないΩをその場に捨てて、自分はどっかに行ってしまう。
で、また別のαが寄ってくる・・・・・・それの繰り返し。
終わりなんて、いつになることやら。
たとえ『運命の番』に出会えたとしても、病気や事故で相手が死んでしまうかもしれない。
遺された方は・・・・・・どうしようもない。
俺の場合がそうだった。
俺の家は代々βの家系だったが、母が生んだ双子は片方がα、片方がΩ・・・・・・しかも、兄弟で『運命の番』であることが判明した。
研究者である父は歓喜・・・・・・このようなケースは稀で、研究対象とされたけれど苦ではなかった。
双子の兄がα、弟の俺がΩ・・・・・・
世間一般のΩがどういう扱いを受けているのかは、歳を重ねるごとに知ったけれど、俺は何もかもに恵まれていた。
だけど、ある日・・・・・・兄は死んでしまった。
母と一緒に・・・・・・
「なぁ、あんた、まだ『巣作り』もしたことないんだって?」
前の席の背もたれを抱きかかえるように座り、αの生徒は自信に満ち溢れたドヤ顔をグッと近づけてきた。
今噂のイケメン編入生、俺より一つ年上で、確か名前は獅童紅刃・・・・・・
『巣作り』をしたことがない・・・・・・つまり、ヒート(発情)したこともない。
それは・・・・・・・俺にとってはイイことなんだ。
だって、俺にはもう・・・・・・『運命の番』の片割れがいないんだから。
「俺と付き合ってみない?俺達『運命の番』かもよ?」
「は?」
自然に目が据わる。
俺の名前は鷹宮天城、父親がこの街の政府御用達研究所で働く研究員だったこともあり、比較的環境に恵まれて育てられたΩだ。
この高校、三分の一がα、三分の二をβ、そして、各学年に数人ずつΩがいる。
Ωは研究所に保護・・・・・いや、捕獲、されてαの為に徹底的な調教・・・・・・もとい、教育を施される・・・・・らしい。
スラム街のような治外法権の街で暮らすΩもいると聞いたことがある・・・・・・会ったことはないけど。
前者でも後者でも、Ωには夢も希望もない。
どっちも人として扱われないのだ。
自暴自棄になって自殺するΩも少なくない。
俺には兄がいたから・・・・・・他のΩと扱い方は違ってた、と思う。
そんな中、法律が改正された。
それによって、少しだけ、この世界のΩに優しい法律になった・・・・・・らしい。
法律の事は、よく解らないけど・・・・・・
この街でも、少しだけΩの扱いが変わったって噂で聞いた。
「付き合ってみれば俺の良さが解ると思うぜ?」
自信過剰男。
確かに顔はいい・・・・・・と思う。
格好いいよ、イケメンさん、俺の好みではないけど。
この学園に編入してくるくらいだから頭もいいだろう。
でも、成績優秀、容姿端麗なαなんて、ココじゃ珍しくもない。
お前、俺のことからかってる?
失礼だ。
まったく、失礼な先輩だ。
「別に知りたくありません」
ムカつく。
ガタンッと、ワザと大きな音を立てて立ち上がり・・・・・・
「一昨日来やがれ、ばぁか!」
捨て台詞を吐いて、紅刃に向かってベッと舌を出して教室を出た。
αに対しての物言い、何様だ、とβの連中がザワついてる。
嫌な視線が突き刺さる。
けど、直接俺には言えない連中ばっかりだ。
俺の親の影がバックに見えるんだろうな。
はぁ、もう授業受ける気なくなった。
教室を出てから、俺はそのまま屋上へ向かった。
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