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七、ヒート×けれど気持ちは③
***
それは突然だった。僕の気持ちや意思は完全に無視された。
理性なんて、無に等しい。
カチカチとスイッチを上下に押しても、壊れてしまっているようだった。
「……熱い」
保健室の空調が壊れているのかと思った。何度も冷房のスイッチを下げても下げても、身体が火照って、息をするのも苦しくなっっていった。
抑制剤は一度に二錠だったが、怖くなって四粒飲んだ。
それでも熱は身体の中でぐるぐると回っている。
突然で、予想もできないほどに身体の自由を奪われ、ベッドの上で自分の身体を抱きしめて抑えるしかなかった。
熱い。苦しい。
熱が下半身に溜まっていく。
熱くて火傷しそうだった。
先生が戻ってくるまで耐えきれる自信がなくて、途方もなく絶望が押し寄せてきた。
ズボンを緩めば、熱が逃げていく。分かっているのに、怖かった。
一度手を伸ばしてしまえば、自分で触って慰めてしまう。
止められる自信がない。
肩を抱きしめる力を籠める。爪が肩に食い込んでも、歯を食いしばっても、熱が冷めてくれない。
薬が効くことを祈るしかない。
祈るしかなかったのに。
匂いが近づいてきていた。
その匂いに包まれたかった。
その匂いが、体温が欲しくて涙が込み上げてきた。
嫌だ。来ないで。来ないでほしい。逃げたい。
欲しい。はやく。抱きしめて。熱を受け止めて。触れて。
怖い。嘘だ。自分じゃない。
はやく。はやく楽にして。
「――壮爾さん?」
震える彼の声が、ぼやけた視界の先から聞こえてきた。
世界で一番会いたくなかった。二度と触れてほしくない。
そして今すぐ抱きしめてほしい。傍にいてほしい。
匂いで包まれて、身体の熱を奪ってほしい人。
番としての本能と理性の中、僕は彼が近づくことを拒絶できなかった。
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