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1.6
いよいよ夏がくる。
俺が独り暮らしを始めたのは7月に入った頃だった。
物は少ない俺でも新生活を始めるために、かなり
お金を使った。
学生の頃、バイトで地味に貯めたお金も使い
果たした。
その頃母が、渡してある生活費とは別に
お金が欲しいと言ってきた。
一緒に住んでいた時には家賃のつもりで
家を出てからは親孝行のつもりで毎月渡していた
なけなしの3万円。
おそらく羽振りの良かった彼と別れたのだろう。
以前も、顔を見れば数千円の買い物を頼まれたり
「ちょっと貸して」
と言われて、帰ってこないと分かっているお金を
貸したりすることはあったけど
今月足りないから、くれと言われたのは
初めてだった。
こっちもギリギリで生活してるのに…
さすがにイラついて無理、と切り捨てた。
本当はこっちがもらいたいくらいだ。
月に26、7万程度の給料の中から3万という
お金を渡すのは楽ではなかった。
めんどくさくなった俺は
その後、1度だけ母からの着信を無視した。
普段なら出れなくても、その日のうちに
折り返していたのに、それもしなかった。
それが最後だった。
後から思えば、だけど。
母から連絡は来なくなり、8月の終わりの
給料日まで俺も連絡をしなかった。
生活費は毎月、お互いの都合のいい日を連絡しあって
俺が家まで届けていた。
いつがいいのか確認しようと
母の携帯に電話をかけてみると
この番号は現在使われておりません…
というトーキーが流れていた。
ー アイツまたか…。
その時は それくらいしか思わなかった。
母は以前、機種変更に行って、間違って?
新規契約をしてきた事があった。
そっちの方が安くなると言われた、と
何も考えずに。
その時も番号が変わったという連絡をしてこなくて
後日、叱った事を思い出したからだ。
給料日の翌日、仕事の後で実家に向かった。
連絡できなかったけど、いる時間はだいたい
分かっていたから。
そこで見たのは想像もしなかった
光景だった。
家には何もなかった。
狭い2DKにぎゅうぎゅうに詰め込まれていた
荷物がきれいさっぱり消えていた。
まさにもぬけの殻…。
「……は? 夢?」
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