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高校を卒業して働き出すと、最初の月から 家賃として月に3万を母に渡す事を決めた。 母は ありがとう、と嬉しそうにそれを 受け取ってくれた。 未婚で20の時に俺を産んだ母は、昼過ぎから近所の 小さな工場で働き、夜は、いわゆるスナックの ような所で働きながら、とりあえず俺をここまで 育ててくれた。 とりあえず…というのは 時々家を空けて、何日も 帰らなかったり、食事も弁当やカップ麺、外食が 多く、家事も適当で、少々育児が適当だったからだ。 それでも彼女なりに俺の事を一生懸命育てて くれたと思う。だから俺もそれなりに母に感謝 していた。 「あんたは どんどんパパに似てくるねぇ」 小学生の頃、酒の臭いをプンプンさせて深夜に 帰宅した母は、俺の頭をなで回して よくそう言った。 父親の話しは彼女が酔っている時しか聞いた事がない。 だから俺は父親がどんな人なのか全く知らない。 1度だけプリクラのような小さな写真を見せて もらった事があるけど、どこが似てるのか さっぱり分からなかった。 母と2人で頬を寄せて、しっかり抱き合っている 楽しそうな2人。色褪せた小さな写真の中のその人は 特に特徴のない、普通の若者だった。 今になってみるとあれが本当に父親だったのかも 怪しい。 「パパはαで大きな会社の社長さんになったのよ」 なんて聞かされてたけど、写真の男性は いたって普通の身なりで、どちらかと言えば パッとしない、地味な少年に見えたから。 「お父さんはどこにいるの?」 1度だけ聞いた事がある。 その質問に母は 目も会わせずに 「事故で死んだのよ」 と、サラッと答えた。 そう言われたら、あぁ そうなのか、としか 思わなかった。 生まれた時からいなかった存在が 死んだと言われてもショックですらなかったから。 俺が父親について知っている事はその程度 つまり、何も知らないに等しかった。

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