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2.次の世界 ※
「お前、発情期だろ?」
突然そう声をかけられた。
工場の同じライン作業のメンバー20人ほどでの
飲み会の席。
何度かイッキを要求されて
俺は気分が悪くなって、こっそり席を立った。
高校の時からアルコールは飲んでいたし
自分は弱くも強くもないな、と思っていたけど
さすがに2度3度とイッキさせられるのはキツい。
座っていたらどんどん若手から
イッキの餌食になると思い、一時トイレに逃げた。
用を足して、ゆっくり手を洗って、髪をいじり
携帯を見て時間をかせいだ。
そろそろ戻らないと、誰か探しに来そうだな、と
しぶしぶトイレを出た。
出た先の、細い通路で背の高い男と肩がぶつかって
顔も見ずにスミマセン、と頭を下げる。
「お前、発情期だろ?」
唐突に言われて は?、と返す。
ぶつかった相手は同じ工場の社員で
いくつかのラインの班長をしている男だった。
名前は……何だっけ?
くじょう…さん?
直接関わった事もなくて、顔は知っていても
名前まではうろ覚えだ…。
契約社員として入った時から、アイツは誰でも
食うから気をつけろ、と何度も色んな人から
聞かされた。
先ほどまではテーブルに居なかったし
きっと残業でもして、遅れて参加したのだろう。
「薬飲んでねぇの? 」
俺はウッカリ、飲んでますよ。
と答えそうになって、あわてて言葉を飲み込んだ。
雇用主と一部の人間しかΩの事は知らないはず。
「俺、βですけど?」
「……ああ、そういう契約にしてるのか」
自分の話しを全然信じてない様子に、少しずつ
不安がこみ上げる。
ー え、まさか本当にフェロモン出てる?
「ばれたくないなら席、戻るな
いくらβの奴らでも、そろそろ気付かれるぞ」
ー なんだこの人…
そう言われても そうですか、と
従うわけにもいかない。
そう言ったらΩだと認めることになるし
そもそもハッタリでからかってるのかもしれない。
ー 朝ちゃんと薬は飲んだし
今までだって、ばれた事なんてない
絶対大丈夫だ!
「別の人と勘違いしてません?
俺、違いますから…」
そう言って笑いながら席に戻ろうとすると
肘をグッと捕まれて、強い力でトイレに
引き戻された。
そのまま壁ドン状態に追い込まれて
驚いて九条さんの顔を見上げる。
「じゃぁ、教えてやるよ」
何を?
そう聞く前に
強引に唇を重ねられた。
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