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8. 4
蓮は何も聞いてこなかった。
俺の様子がいつもと違うと気づいていながら
いつもと同じように全部与えてくれた。
相変わらず身体には誰かの残した痕跡。
でも今日はそれを見てホッとする。
俺の頭の中を誰が占領していても
蓮はそれを責めたりしない。
蓮にとって俺は、この痕を残した人と同じ
ただ肌を合わせて、気持ちよくなって
溜まった物を一緒に吐き出すだけの存在。
蓮は俺にそれ以上を求めてこない。
「っもっと…もっと!」
腰が浮くほど抱えられて
激しく打ち付けられて
頭が真っ白になる。
そう、そのまま…
頭の中で勝手にリピートされる
あの会話を消して
「ああーーっ……!」
・
・
シャワーを浴びて出ると、キッチンで
蓮が慣れた手つきでフライパンをふっていた。
「いい匂い、ナポリタン?」
「おお、腹減っただろ」
ナポリタンは前にも作ってもらった事があった。
俺が気に入ってたのを覚えてたんだろう。
蓮はこれまでも何度かご飯を作ってくれた。
そのどれもが凝った物ではなかったけど
ちゃんと美味しかった。
俺が傍らに立って覗きこむと
蓮がソーセージをひとつ摘まんでフーフーと
息をかけて冷まし、俺の口に入れる。
「ウマイ」
「そっち、もう消して」
パスタを茹でてる鍋を顎で示す。
皿出して、お茶入れて…俺は指示された事を
淡々とこなして
すぐにナポリタンは出来上がった。
「蓮のナポリタンめっちゃウマイ!」
考えてみれば昼からまともに食べてなくて
めちゃくちゃお腹が空いていた。
ガツガツ食べる俺を、いつものように
蓮が目を細めて満足そうに微笑んで見つめてる。
「和真それ好きだよな」
「うん。今度教えてよ」
「…教えない~」
「なんだそれケチ」
「食いたくなったら来なさい」
蓮は半分冗談のように笑って言った。
「餌付けかよ」
俺も笑って返した。
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