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8. 5
「正月は?何してた?」
食後に蓮が冷蔵庫から、ゼリーを出してきた。
「…別に何も…ダラダラして
友達と飲んで…初詣行って…」
「実家帰ったりしてないの?」
俺はゼリーをスプーンでつついて少し考えた。
「帰る実家がないんだ」
蓮は表情を変えずに黙って俺を見ていた。
俺はざっくり自分の生い立ちを話した。
別に隠してた訳じゃないから、話すことに
抵抗はない。誰にでも聞かれたら答える。
でも、楽しい話しではないと自覚してるから
進んで話したりする事は少ない。
「俺も父親いないんだよ」
話を聞いた蓮が、軽い調子で言った。
「俺も父親には会ったことない
母親は俺を妊娠したことを父親に隠して
未婚のまま、俺を産んだんだ」
「どうして?」
「不倫だったらしい。父親は結婚していて
正妻はαで不妊体質だったらしくて子供が
できなくて、養子も検討していたって…。
だから…もしお腹の子がαだったら
子供を取られるんじゃないかって、怖くて
逃げだしたんだって」
俺は蓮の意外な生い立ちを知って言葉が
出てこなかった。
心のどこかで、苦労なんて知らずに育っただろうと
思っていたんだ。
「俺たち、ちょっと似てるな」
そう言って、何でもない事のように笑う蓮に
俺は何故だかドキドキしてた。
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