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でも幸せな時間は数ヵ月も続かなかった。
倫斗はバイト帰りに、泥酔した大学生数人に
乱暴されて、その中の1人のαに番にされて
しまった。
そのαは、医大生で、両親も医者という
エリート一家のお坊ちゃんだった。
すぐに弁護士をたてて両親がやってきて
ひたすら頭を下げ、お金を出して
結論としては示談になった。
本人も酔った勢いの愚かな行動を深く反省していて
倫斗も許すしかなくなってしまったらしい。
その後倫斗はクリニックに通い、薬で抑制し、
発情期の来る頻度を減らしていく治療を始めた。
レイプの被害者が多く用いる方法だった。
でもこの薬は副作用が強く、特に倫斗の体質にも
合わなかった。
少しずつ、心が病んでいき
何度目かの発情期に、持っていた安定剤や
眠剤、抑制剤…全てを飲んで
突発的に首を吊ってしまった。
遺書すらなかったと言う。
蓮はそんな別れ方をした倫斗を
今も忘れられずにいるのだと。
碧斗はこうも言っていた。
倫斗が死んで、身内以上に心身を病んでしまった
蓮を支えて、現実に引き戻したのは自分だったと。
そして、とりあえず日常を取り戻した蓮は
しばらくすると、寂しさや苦しさを打ち消すように
誰とでも寝る、いいかげん男になっていった。
「どんなにボロボロでも、酔いつぶれてても
絶対に僕には手を出さなかった」
碧斗は自嘲するように笑って言った。
話しを聞いている時、自分はこの話しを聞くべきじゃ
ないと思った。俺なんかが聞いていい話ではないと…
そして、こんな話しをわざわざ聞かせる碧斗に
腹立たしさすら覚えていた。
俺は自分が蓮にとって特別な存在だなんて
思った事は1度もないし、他のセフレを
家に入れてなかったなんて、言われなければ
知らなかった。
それに、今以上の関係を蓮に要求する気も
なかった。
「何で俺にわざわざこんな話しを?
蓮の事が好きだから?」
俺が聞くと碧斗は、冗談でしょ?と笑った。
「誰があんな浮気男
僕らは腐れ縁。定期的に会って、お互いを
監視しあってるんだよ。
ちゃんと人間らしい生活をおくれてるか」
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