64 / 122
11. 4
「え?」
「蓮の家に最近よく現れる“匂い”」
碧斗が何を言いたいのか分からなくて
混乱したまま、彼を見つめた。
「蓮は誰でも受け入れてるように見えて
誰も受け入れない。
君が彼の家に入り込んだ事で、自分は特別で
他のセフレとは違うなんて思ってたとしたら
それは勘違いだよ」
碧斗はソファーに座り直して、見下すみたいに
俺を見た。
「蓮はずっと、1人のΩの事を忘れられずに
いるんだ」
頭の中が真っ白になった。
聞きたいような、聞いてはいけないような…。
「さっきも言ったけど君が勘違いしてないなら
いいんだ」
「碧斗…さんは?蓮の家に行ってるの?」
「もちろん 行ってるよ。
あ、でも僕はセフレじゃないよ」
碧斗はクスクス笑って頬杖をついた。
「蓮の大切な人の弟」
幼馴染みの弟だって…
碧斗の事を、そう言ってた。
俺に話すのが気まずいから、適当な事を
言ってごまかしてるのかと思ってた。
「大切な人がいるのに
どうしてセフレなんて…?」
「死んだんだよ」
「…え?」
「自殺したんだ、俺の兄」
・
・
家に帰って携帯を見たら
蓮からメッセージが届いてた。
(今日家まで送れなくてごめん)
俺は何も考えられずに
(気にしないで)
と返信した。
夕飯を買うのを忘れた。
碧斗と別れてから、あらためて買うつもり
だったのに。
音の無い部屋でベッドに倒れて
さっきの碧斗の話しを思い出す。
自分の兄は自殺したんだと言った。
蓮と自分の兄、倫斗 は付き合い始めた
ばかりだったと。
子供の頃は近所を駆け回って遊ぶ、ただの
友達だった。でも思春期が来て、自分達の性が
Ωとαだと認識してから、関係は徐々に離れて
いった。
ところが社会人になってから、2人の関係は
また急に近づいて、気づいたら恋人同士に
なっていたという。
ともだちにシェアしよう!