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12. 透明なまま
(そろそろ、発情期じゃないの?)
2月の最後の金曜の夜、蓮から電話があった。
そうなのだ、実は発情期が来ている。
でも、俺はそれを蓮に伝えずにいた。
「蓮、まだ怪我が治ってないから、次の発情期の
方がいいかと思って」
(ちょっと体、痛いくらいの方が、お互いの
ためにもいいんじゃない?)
蓮がふざけて電話の向こうで笑っている。
「…でも今日は無理だよ…ってゆうか
今週末は用事ができちゃって」
(用事って何よ、まさかアイツ?)
「はい?」
「大好きなカレと約束?」
ー 政実のことか…
「…うん…まぁ…だから ごめんね?
また今度…」
(発情期に好きなヤツと会って、エッチも
しないなんて、逆にツラいだけだろ?
…あっそれとも、おまえ…まさか…)
「あー!違う違う!
二人きりじゃないし、ご心配なく」
(…あ、そ。
でも俺との約束も忘れるなよ)
「ハイハイ!」
用事なんてなかった。
始めてウソをついて蓮の誘いを断った。
俺は碧斗と会って以来、蓮と会うのが
気まずくなってしまった。
もっと言うと、
とてもじゃないけどエッチな気分なんて
ならない。
でも確かに約束は約束だ。
俺は蓮に肉を奢らせておいて、何もお祝いを
していなかった。
これはさすがに良くない。
どうしようかと考えながらも、時間だけが
勝手に過ぎてしまった。
・
・
・
「最近よく会うよね」
枝豆をつまみながら政実が言った。
いつもの居酒屋のカウンター席で2人並んで
ビールを飲む。
「最近、残業がないから暇なんだ」
俺は適当な事を言って流した。
蓮にウソをついて断るのが気まずくて
あまり家に居たくない俺は、また以前のように
暇さえあれば政実の家に転がり込んで
時間をつぶすようになっていた。
「就職活動頑張ってんの?」
「まぁ ぼちぼちね」
政実は短大生だから、ほぼ入学した時から
就職活動をしていた。すでにいくつかの会社で
インターンシップにも参加しているようだ。
第一希望は旅行会社らしい。
政実にあってるな、と思った。
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