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会計をして、店を出ようとした時、 入れ代わるように入ってきた数人と目があうと 「あっ」 「あっ」 入ってきた客と、政実が同時に声を上げた。 「あれ、何でこんなところに!?」 「グルメサイトで見て…え、政実君は?」 「俺、家が近くでさ、よく来るんだ」 親しげに話す相手はΩのチョーカーをしていた。 まるで女の子みたいに小柄で、華奢な男の子だった。 政実が俺の方を見て、インターンシップで一緒 だったんだ、と耳打ちして、相手にも 「こいつ中学の時からの友達なんだ」 と、紹介した。相手は人懐っこい笑顔を見せて こんばんは、と丁寧に頭を下げてくれた。 「また、一緒にのもうよ!」 「うん、いいね!連絡する」 2言3言、会話してから俺たち2人は店を出た。 「かわいい子だね」 「だよな、愛想もいいし男女問わずモテる タイプだよね」 その通りだと思った。 ΩらしいΩ。 容姿はそこそこだったけど、笑うと目がなくなって 愛らしい。 人から可愛がってもらう術を知っている。 そんな感じだった。 大学に入ってからの政実は特定の相手は つくっていない、大勢でワイワイ盛り上がる方が 楽しくて、誰か1人縛られるのがもったいないと 思ってるようだった。 そんな政実の様子を見て実はホッとしていた。 今さら彼女を作らないでほしいなんて、思ってる 訳ではない。 (思ってないこともないけど) 彼女ができたら、今のように気楽に約束もせず 飲んだり、家に押しかけて泊まることが できなくなってしまう。それが辛い。 「家でも飲むならコンビニでつまみ買ってく?」 少し先を歩く政実が振り返って首を傾げる。 「おう、ゲームなんちゃらってドラマの続き 見るしなぁ、なんか欲しくなるよな」 「俺ネギと見るつもりで、続き見てないんだよ やっと見れるわ~」 政実は俺の首を、片腕でロックして、片腕で 頭をグシャグシャに撫でた。 政実の匂いがする。 石鹸のような、果実のような。 そこは俺にとって世界一安心できる場所だった。

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