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12. 3
気づいたら、1ヶ月蓮と会っていない。
いや、職場では毎日顔を会わせてるから
2人きりになってないだけだ。
思えば蓮から連絡があるのも月に3,4回程度だった。
そして俺から誘うのは月に1,2度あるかないか…。
前回、発情期の時にウソを言って断り、
その後も1度、その時は本当に政実と約束が
あって断った。
それから連絡はなく、今に至る。
職場では相変わらず、お互い他人のように
振る舞ってるから言葉も交わさない。
そうしていると、もうこのまま距離ができて
知り合う前に戻っていくような気すらした。
そもそも、酒とヒートの勢いだけで寝てしまった
だけの関係だ。ずるずる続けたのが間違いだった。
片想いとはいえ、俺には政実がいるんだ。
そうだ、もうやめよう!
そんな事を考えて、気合いを入れて
勢いよくドアを開け、トイレを出た。
その目の前。
手洗い場で、蓮が手を洗っていた。
「うわっ!!」
俺は笑っちゃうくらい大げさに驚いてしまった。
「お化けじゃないんだから」
蓮は呆れたように笑った。
昼休み、皆が食堂に向かう中、自分は先にトイレに
立ち寄った。入るのを見ていたんだろうか?
「誰も居ないと思ってたから…」
動揺しながら自分も手を洗った。
蓮は洗い終わっているのに、じっと俺を見て
トイレを出ようとしない。
「な、何? お昼行かないの?」
「最近つれないねぇ…」
ハンカチで手を拭きながら、出ようとする俺の
腕を掴んだ。
「誰か来るよ、離して」
「彼とうまくいったの?」
「…え?」
「最近よく会ってるんだろ?
別に…それならそれでいいよ
隠さないで、ちゃんと言って」
どうしよう…ここは、思いきって
うまくいった事にした方が、丸く収まるような…。
蓮の顔を、ちらっと見上げた。
久しぶりに近くで見た蓮の顔は、相変わらず
直視できないほど、綺麗だった。
日本人離れした堀の深い顔が、じっと俺の
顔を見つめている。
ドキドキして呼吸が上がりそうだ。
俺は目を反らし、ぎゅっと目を閉じてうなずいた。
「…そっそうなんだ!」
蓮が掴んでいた腕を離して、小さく息を吐いた。
「……あっそ…」
そしてすぐにくしゃっと笑った。
「良かったじゃん、 卒業おめでとう」
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