121 / 122

20. 2

落ち着いた、上品な身なりの青年は 横断歩道を渡りきり、和真に駆け寄ると 和真の頭をポンポンと優しく叩いて、何かを 嗜めている。 和真は、一瞬だけ肩をすくめて謝るような 素振りをすると、すぐに目を細めて笑った。 ー ああ、やっぱり和真だ! 見間違いじゃない! それから彼は和真のお腹に優しく触れる。 和真も一緒にお腹を撫でて、手を繋いだ2人は ゆっくりと川沿いを歩き出した。 ー ……そうか。そうなんだ。 和真の纏った長めのスプリングコートの下に 見え隠れするお腹が、膨らんで見えた。 ー …幸せなんだな。。 勝手に顔がほころんだ時、後ろの車にクラクションを 鳴らされた。いつの間にか信号が変わっていた。 クラクションの音に驚いたように、2人は一瞬 こちらを見た。 俺は車を発進させて二人の横を通り過ぎ バックミラーで、もう一度2人を見ると 和真がじっとこちらを見ているような気がした。 「…ソイツ俺のだったんだぜ…」 そう呟いて1人で笑った。 一緒に歩く“彼”が、和真がずっと恋していた “友人”と違うことはすぐに気づいた。 以前1度だけ会った“友人”は、俺と身長が 変わらないくらいだったけど 今日一緒の彼は、和真とそれほど身長差が なかったから。 ー 新しい恋ができたんだな…。 “友人以上恋人未満”の関係から 彼はお前を引き剥がしてくれたのかな? 自分ができなかった事をやってのけたであろう その彼に少しの嫉妬を覚えた。 あの時強引に和真を連れ去っていたら そこに居たのは自分だったかもしれない…。 もう一度バックミラーを見た。 もう遠く、小さくなった2人がかろうじて見えた。 薄いピンク色の景色すらも 2人を祝福してるようだ。 手を繋いで歩く姿が、春の麗らかな日に 悔しいほどよく似合って、不幸な事など 2人には何もないように幸せそうに見えた。 「よかったな」 いつまでも幸せであってほしいと思った。 誰よりも。 自分の分まで。 高く澄んだ青い空がずっとお前の上に 続きますように。 ~ 完 ~

ともだちにシェアしよう!